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259.会話 らくがきの話

本日もこんばんは。

道すがら発見するらくがきって誰がいつ描いているんでしょうか。描いているところを見たことがないので妖怪『ならず者画伯』と呼ぼうと思います。

「廃墟の壁や床、道の途中に描かれたらくがきって、地味に上手ですよね」

「こういう場所へのらくがきはやっちゃだめですが、たしかにお上手ですね」

「上手く描けるように、家で練習してたりするんでしょうか」

「本番もおうちでやってくれればいいんですけどねぇ」

「見てほしいんでしょうね。魔王さんが絵を描いて私に見せてくるように」

「力作は誰かに見てもらってこそです!」

「相変わらず闇の絵画ですけどね。力を入れずにテキトーに描いてみたらどうです?」

「勇者さんに見せるのに手抜きにしろと⁉」

「上手に描こうとするから変に力が入るんですよ。ほら、ここの壁を見てください」

「試し書きでしょうか? かわいいうさぎさんですね」

「まずは緊張をほぐすことが大切です。壁一面にうさぎの絵を描きましょう」

「本番で描くところがなくなりますよ」

「練習は本番のように、と言います」

「これだと練習が本番になっているんですよ」

「そもそも、らくがきに力を入れるなって話です」

「…………すっ」

「なぜカメラを構える」

「勇者さんが寄りかかった壁に羽の絵が描かれていまして、まるで羽が生えたように見えたものですから……」

「うわ、気づかなかった。……にしても上手ですね。よく壁に描けるなぁ」

「大天使勇者さん…………」

「らくがきはだめなんじゃありませんでした?」

「ぼ、ぼくは魔王なので悪くていいのです。お写真一枚撮ってもよろ――」

「だめです。……あれ、ここに数字が書いてありますね。なんのらくがきでしょうか」

「ははーん、電話番号ですね。ご丁寧に『連絡待ってます』の文字もありますよ」

「わざわざ廃墟に書かなくても」

「いたずらみたいなものですから。言っておきますが、絶対に連絡しちゃだめですよ?」

「壁に絵を描く方法を伝授してもらえるかもしれません」

「だめです。こういうのはろくなもんじゃありません。絶対にだめです」

「かわいいうさぎの絵が添えられているのに」

「油断させようとしているだけです。犯罪を未然に防ぐため、ぼくはらくがきをらくがきで上書きします! これは正義のらくがきです!」

「おお……。壁が地獄のように」

「はっぴーな楽園でキャッチボールをするこどもたちの風景です」

「あ、すみません。つい地獄って言っちゃいました」

「こんなところにスプレー缶が。勇者さんもどうぞ」

「ナチュラルにらくがきに誘っていますね。まあ、いいでしょう。そぉい」

「ぶはぁぁぃうぁああのぼくの顔は壁じゃなくてですね壁は向こうなんですがあの」

「ごめんなさい、割と本気でスプレーの向きを間違えました」

「あ、ふざけたんじゃなかったんですね。ぼくはいま、視界が黒色に塞がれて何も見えません。まるで勇者さんの髪に埋もれているようでちょっとうれしいです」

「口も塞ぎましょうか?」

「もごぉごごぉごおぉぉぅ」

「人様に向けるものではありませんね、これ」

「行動と発言の不一致……」

「えーっと、文字はどうやって書くんでしょうか」

「こんにゃくだけはやめてくださいね」

「……。今日の夕飯に食べたいメニューでも書こうかと思ったんです」

「今の間は見なかったことにしてあげます」

「えーっと、フライドチキン、ポテト、クリームスープ、サラダ、パン」

「……なにも書いていませんよ?」

「勇者たるもの、らくがきはよくないと思いまして」

「……さては、ぼくへの攻撃でスプレーがきれましたね?」

「そこまでらくがきを求めるなら、私は血で描きますよ」

「発想が物騒なんですよねぇ」

「魔王さんの」

「ぼくのですかぁ」

「魔王さんの血で描いたらくがきには魔物が寄って来そうですね」

「カブトムシじゃないんですから」

「この禍々しい絵でもじゅうぶん効果はありそうです。魔物を待ちましょう」

「らくがきってそういうものでは……」

「少し歩いたところにある建物にはらくがきがありませんね。屋根も残っていて描きやすそうなのに。ならず者たちの基準がわかりませんよ」

「廃墟にはよくあるらくがき。けれど、それがない場所は危険だと言われています」

「ならず者がいなくて安全そうですけど」

「ならず者たちがらくがきをしていられないくらいやばい場所ってことですよ」

「……つまり?」

「おばけが出――勇者さーん、走らないでください危ないです嘘です魔物です魔物」

「なんでらくがきしてないんですか! 描けよ!」

「勇者のセリフとは思えませんね」

お読みいただきありがとうございました。

魔王さん作の絵があったらならず者も近寄ってこないと思います。


勇者「こんなところにもらくがきが」

魔王「これは観光客の集客を目的とした正しいらくがきですよ」

勇者「誰もいませんけど……」

魔王「画力が足りなかったみたいですね」

勇者「ならず者に描かせたらウィンウィンなのに」

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