252.会話 ステンドグラスの話
本日もこんばんは。
見た目だけなら魔王さんはステンドグラスとよく合います。見た目だけなら。
「おや、何か落ちていますね。ガラスの破片でしょうか? きっと目潰し用にガラスを叩き割った人がいるのでしょうね」
「当然のようにぼくに突き刺そうとしないでください。ガラスの破片を直接持ったら危ないですよ。手を切るかもしれません」
「すでに誰かが血を流したようです。ほら、透き通った赤色に染まっています」
「物騒な……。これはステンドグラスですね。着色ガラスで絵や模様を作るんです」
「ほお。なんのために」
「そりゃあ、きれいだからですよ。太陽にかざしてみてください」
「……きらきらしていますね」
「神聖な感じもしますよね。教会にも使われていて、最も大きなステンドグラスはかつて存在したとされる大聖女を模しているのだとか」
「大聖女ねぇ……」
「きれいですよ。行ってみますか? 神の使いを教会に設置することは義務みたいなものですから、ほとんどの教会にステンドグラスがあると思います」
「教会はちょっと……」
「そうですか? では、僭越ながらぼくが勇者さんを模したステンドグラスを作ってご覧に入れましょう」
「またばけものを生むんですか」
「違いますよう。着色ガラスを組み合わせて勇者さんを作るだけです」
「それをばけものと呼ぶ」
「完成品を見てから言ってください」
「完成したらいいですね」
「パズルみたいなものですから! たぶん」
「草むらに別の破片も見つけました。ステンドグラスとやらが壊れた残骸でしょうか」
「拝借して作ってみましょう。勇者さんは触っちゃだめです。ケガをしますから」
「過保護ですねぇ」
「まずは赤色と黒色を……。黒というより灰色ですね。赤色もいろいろあってかわいいです~。お花もつけたいですねぇ。ゴージャス勇者さんを爆誕させたい所存です」
「何時間かかるんですか」
「一週間いただければ」
「長い。却下」
「いたっ、痛いですガラス刺さないでくだ、いだっ、ぴぃぃ」
「そもそも、ガラスをパズルのようにして絵を作るなんて難易度高すぎます。直接ガラスになった方が手っ取り早いですよ」
「それはそうですけど――なんて?」
「ちょうどいいところに姿見が」
「なんで?」
「これを立てかけ、収まるように前に立ちます。はい、ガラスイン勇者です」
「ステンドグラスについて小一時間ご説明してもよろしいでしょうか」
「三分間だけ待ってやります」
「あれ実は三分間待っていないんですよ……」
「仕方ないですね。四十秒でガマンします」
「短くなっているじゃないですか」
「めんどうですね。この姿見も粉々にしますよ」
「因果関係が不明すぎるので小一時間説明していただいても?」
「ステンドグラスはガラスの破片を使うのでしょう? まずはガラスを割る必要があります。れっつばりんばりん」
「こらこら、危ないですよ。ガラス片は飛び散って――うぎゃああぁあぁいたぁ⁉」
「ガラスの向こうにはミラーワールドがあると聞きましたゆえ」
「しっかり説明ありがとうございますやめてください」
「ガラスの世界に入れてしまえばステンドグラスも真っ青のリアル感ですよ」
「ガラスが割れてケガをし、その出血で顔が青くなるってことでよろしいでしょうか」
「顔面見えてますか? 感動して青白くなるんですよ。ほら、鏡どうぞ」
「押し付けられてなにも見えませんよ」
「姿見の隙間から白い髪が散らばって殺人現場みたいですね」
「新しい妖怪の誕生になってしまいます」
「おまけにステンドグラスの破片もあるのできらびやかな死に場所ですよ」
「推理小説の一ページ目みたいなこと言わないでください」
「捜査をかく乱させるためにステンドグラスの破片でダイイング・メッセージでも作っておきましょう。えーっと、『犯人は私だ』と」
「それだとぼくが犯人になりますが」
「ヒントで赤い破片を置いておきます。これで目の色を判断できるでしょう」
「ほとんどの魔なるものは赤目ですけど」
「仕方ないですね。ステンドグラスで犯人像を作ってあげますよ」
「おお~。例のごとくお上手にはめていきますねぇ。って、勇者さん像!」
「犯人はこの人です」
「芸術性の高い犯人ですこと……」
「では、捜査のかく乱のために作ったステンドグラスを壊します」
「まさか、ステンドグラスが壊れて散らばっていた理由って……!」
「それに気づいたひとは犯人に殺されるのが推理小説というものです」
お読みいただきありがとうございました。
粉々ステンドグラス。
勇者「最初にステンドグラスを考えた人は暇だったんでしょうか」
魔王「違うと思いますけど……」
勇者「それか、ケガをした時に血で染まった赤色ガラスがきれいだったから他の色も……ですかね」
魔王「違うと思いますけど……」