251.会話 空飛ぶ絨毯の話
本日もこんばんは。
空飛ぶ絨毯、一度は乗ってみたいですよね。
「空飛ぶ絨毯という物があると聞きました。なんてすばらしいのでしょうか」
「ほしいんですか? たしかに、移動する時には便利ですもんね」
「絨毯が空を飛ぶなら布団だって飛びますよね」
「……ん? すみません、ぼくの聞き間違いでしょうか」
「空飛ぶ布団……。ぬくぬくしながら、眠りながら、だらだらしながら、その活用は実に様々といえます。絨毯よりも厚く手触りも良し、完璧ですよ」
「空を飛びながら眠りたいってことですか」
「違います。布団に包まれながら空を飛んで移動したいんです」
「ほうき……じゃだめみたいですね」
「最も重要なポイントは布団であるということです。絨毯にくるまって寝る人は今のところ見たことがありませんし、寝心地悪そうです」
「ふかふかの絨毯なら……って、なんでぼくは絨毯のフォローをしているのでしょう」
「私は浮遊魔法を使えませんし、魔女でもないので空飛ぶ布団は夢のまた夢……。一般ピーポーにも使える魔法の道具があればいいのですが」
「魔法道具の研究をしている人はいると思いますよ。ぼくは使ったことないので調査が足りませんけど、空飛ぶ布団なるものも探してみましょうか?」
「めんどくさいので結構です。言ってみただけですから」
「おや。快適な旅が手に入るかもしれないのに?」
「いつも以上に魔王さんが潜り込もうとしてくる気配がしているので」
「ぼくはいつでもいつも以上に潜り込みたいと思っていますよ」
「ややこしい言い方やめてください。そして潜り込むな」
「お、押さないでください。顔がへむぬみゃぁ」
「ふと思ったんですけど、自分が浮くのと物を浮かせるのは別の魔法なんですか?」
「そうですよ。対象が異なる浮遊魔法になります。自分が浮く方が簡単で、物を浮かせる方が難しいのです。ふわわ~っと」
「魔王さんが浮いているとただの聖なる使いなのでやめてください」
「偏見……。自己浮遊魔法は自分の魔力を操作するだけなので、特別な事情がある者以外はみんな使えるといっていいでしょう。逆に、無機物浮遊魔法は固有魔法に当たります。さらにさらに、有機物……ここでは命あるものと定義しますが、それを浮かせられるのはかなりの使い手でなくてはできないことなんですよ」
「魔王さんは?」
「できますよ~」
「ですよね。じゃあ、私を浮かせてください。あ、布団に包まれた状態で」
「ぼくの力は勇者である存在に対してのみ多くの制限がかかっておりまして」
「唐突な真顔やめてください」
「有機物浮遊魔法も勇者さんには作用しません」
「なんだと。そんなこと許しません。抜け道を探します。見つけました」
「秒殺ですね」
「私を包んだ布団を浮かせてください。布団は無機物判定でしょう」
「誤ってすっぽ抜けたらどうするんですか!」
「布団に包まれた私が布団を手放すわけないじゃないですか」
「それはどういう意図の発言なんですか。まさか、安心材料で言いました?」
「もちろんです。愛する布団に包まれた私はいかなる状況でも離れることはありません。どれだけ振り回されても平気です。これが空飛ぶ布団の力です」
「どちらかというと空飛ぶ布団に包まれた勇者さんの底力だと思います」
「私の快眠は魔王さんの操作具合によりますので責任は重大ですよ」
「眠ったら底力を発揮できないような」
「魔王さんを信頼しているのです。にこり」
「心の底から作った笑みですね。もっとかわいい笑顔をしてください」
「そもそも、なぜ勇者なのに浮遊すらできないのでしょうか」
「地に足つけて生きていきたいからとギフトを断ったのはどこの誰でしたっけ」
「許せませんね、その人。浮遊のすばらしさを知らないなんて愚か者です」
「発言には責任を持ちましょうね」
「勇者のくせにそれっぽい道具もないんですよ。なんですかこのばかでかい剣は」
「深層心理から発現したものと言ったのはどこの誰でしたっけ」
「わけのわからない深層心理をした人がいるものですね」
「それに関しては同意します」
「空に浮かぶ雲のように柔らかで穏やかな心を持った方がいいと思います」
「それによって発現した武器はどのようなものになるのでしょう?」
「空飛ぶ布団一択ですよ」
「武器だったんですか、それ」
「布団の心地よさで敵を油断させ、その隙にはるか上空まで連れ去って最後は落とすのです。布団に勝てるものなどこの世に存在しませんからね」
「思ったよりえげつない武器でしたねぇ」
「ただの布団と侮るなかれ。誰もが知っている布団のおそるべき力を思い知るのです」
「空飛ぶ絨毯の世代交代かもしれませんね」
「魔王に対する恐怖のごとく、布団の力も根付いていくのですよ」
「言いたいことはわかりましたが、そろそろ起きてください?」
「こんなに布団の力について力説したのに私から布団を奪うおつもりですか。驚きです」
「布団から出たくないがために空飛ぶ絨毯の話をしたことにぼくはびっくりですよ」
お読みいただきありがとうございました。
空飛ぶ絨毯ではなく空飛ぶ布団の話でした。
勇者「乗るバランスが難しそうです」
魔王「ぐねぐねしそうですもんね」
勇者「ピシッと張って板のようにしましょう」
魔王「それなら板でいいような……」