250.会話 機械仕掛けの神の話
本日もこんばんは。
なにかとよく出てくるあの神様のお話です。
「勇者さんは『機械仕掛けの神』というものをご存じですか? またの名をデウス・エクス・マキナとも呼ぶのですが」
「デウ……なに?」
「まったく表情を変えずにお菓子をつまんでいる……。他にも表現方法がありまして、『ご都合主義』といわれることもありますよ」
「知りません。それがどうかしましたか?」
「もし、勇者さんが自分の思うままに物語を進められるとしたらどうしますか?」
「勇者を辞めます」
「神というだけあって、神様のようになんでもできるんですよ?」
「勇者を辞めて神様を殴ります」
「ちょっと追加された。殴るだけでいいんですか?」
「蹴ればいいですか?」
「そういう意味ではありませんが……。なぜこの話をしたかといいますと、ぼくはふと思ったのです。この世界の物語をぼくたちに都合よく動かしたらどうなるのだろうか、と」
「無銭飲食し放題?」
「そういうわけでは……いや、それもできますけど。もっとスケールの大きな感じで!」
「私が行くところだけ都合よく魔物が出てこない」
「そうそう、そんな感じです! スケールはそんなにですが」
「眠り足りなかったら時間を延長できる」
「いい調子です」
「魔王さんを殺せる」
「ぐはっ……。そ、それもひとつの可能性ですね……。うぐぁ……」
「魔王さんはどうしたいんですか? 私に質問はするものの、あなたが望む何かがあるからデウス・エクス・マキナ魔王さんになっているんでしょう?」
「なってはいませんけどね。ですが、その通りです。ぼくに機械仕掛けの神のような力があったら……と思ってしまって。無理な話なんですけどね」
「何を望むんですか? コーヒーに角砂糖を十個入れても変な目で見られない世界?」
「それくらいはガマンしますよう」
「それなら、寝ぼけたフリをして布団に潜り込んでも私のグーパンを回避できる世界?」
「何度殴られても潜り込みます」
「では、魔王が勇者と仲良くしても許される世界?」
「……そうですね。そうあればいいなぁと思っていますよ」
「誰かに許可されないと仲良くしちゃだめなんですか」
「ぼくには制約が多いですから……」
「何を今さら。毎日くだらない会話をしていることをお忘れですか。目的地もなく旅をしていることから目を背けないでください。これらに神の力が必要ですか?」
「い、いらないですね。ぼくと勇者さんがいれば可能です」
「つまり、機械仕掛けの神様は必要なし。はい、おしまい。お菓子食べます?」
「いただきます。……苦いっ⁉」
「ビタービタービターチョコレートです」
「甘いのがいいですぅ……」
「はい、ミルクチョコレート」
「ありがとうございます。甘いです」
「神様の力がなくても、苦いものにも甘いものにもなれますよ。たぶん?」
「……もしかして、慰めてくれています?」
「なんで私が慰めなきゃいけないんですか。ていうか、落ち込んでいたんですか? なにに? どういう理由で? 意味わからないこと言わないでくださいチョコレート食べろ」
「ひょえ~。あ、どこへ?」
「飲み物を取りに。魔王さん、ミルクでいいですか」
「はい、お願いします。……デウス・エクス・マキナには『物語を終わらせる存在』という意味もあるのですよ、勇者さん。たしかに、ぼくにぴったりですね。……うううう、でもでも、終わらせたくないです終わってほしくないです~……」
「もっと食べればいいんじゃないですか?」
「はえ?」
「チョコレートを食べる時間が終わってほしくないんでしょう?」
「え、いや、その……。って、これはなんですか」
「機械仕掛けの神ってなんだろうなぁと思い、ナイフとフォークで作ってみました」
「あれはたしか、舞台装置がどうのとかなんとか……痛ぁ⁉」
「神様アタックです」
「思いっきり刺さったのですが」
「平気です。機械仕掛けの神によってすべてはなかったことになりますから」
「ぼくのケガが自動で治ることを言っています?」
「ていうか、私たちは神様嫌いでしょう。気にすることないんですよ、そんなもの」
「そうですねぇ。では気にせず、こうしておしゃべりすることにしますよ」
「あ、ミルク熱々にしましたよ」
「はやく言ってくだぁぁぁあああっつぅぅ! びゃあああ床一面にミルクがぁぁ」
「言わんこっちゃない」
「機械仕掛けの神よ……ミルクをひっくり返す前に戻してぇぇ」
「私の都合的にはおもしろいのでこのままで」
「デウス・エクス・マキナ勇者さん……」
お読みいただきありがとうございました。
こぼした床はおふたりでしっかり掃除しました。勇者さんはちょっと笑っていました。
勇者「いろんな神様がいるんですね。めんどくさそう」
魔王「感想がめんどくさそうって不思議ですね」
勇者「名前も長いし……」
魔王「めんどくさいポイントそこですか」