25.会話 爆弾の話
本日もこんばんは。
爆弾の話です。平和です。
「勇者さん、その手に持っている物はなんですか?」
「よくぞ訊いてくれました。これは爆弾です」
「ぼくの目が正しかったことが証明されました。して、なぜぼくに手渡そうとしているのですか?」
「プレゼントですよ。私からの」
「喜びたいのに喜べないです」
「なんてこと言うんですか。私の愛が詰まっているというのに」
「詰まっているのは火薬じゃないですか」
「四肢が爆散するくらい激しい愛ですよ」
「木っ端微塵になれと?」
「以前、袈裟切りになった魔王さんはくっつきましたけど、肉片になったらどうなるのかと思いまして」
「ついに本音が出ましたね」
「不老不死なので死なないのは承知済みですが、肉片からどのように復活するのか気になりまして。考え出したら夜も昼も寝るようになりました」
「快眠のようでよかったです。寝すぎです」
「爆散から復活までの一部始終を記録し、夏休みの自由研究にしたいと思います」
「閲覧した教師が衝撃で爆散する未来が見えますよ。第一、勇者さんに夏休みはないでしょう」
「社畜ですからね。夏休みなんて私が潰してやりたいです」
「過激な発言はお控えいただいて、勇者さんの求める答えなんですけど」
「肉片の経験がおありで?」
「詳しい描写は控えますが、元通りになることは間違いないですよ」
「やっぱり、うぞうぞと地を這って固まるんですか?」
「描写は控えてください。これは全年齢対象ですよ」
「なにも言わないので私に見せてくださいよ。魔王さんの爆破シーン」
「パワーワードですね。せめて『魔王と爆破シーン』にしませんか?」
「それだとただの日曜の朝ですよ」
「敵に攫われるお姫様役をやりたいです」
「お姫様を攫う敵役のくせによく言う」
「あ、憧れを持つくらいいいじゃないですか」
「お姫様を救う王子様を待つタイプですか。やれやれ、魔王さんもまだまだですね」
「ど、どういう意味です」
「世は自ら脱出し敵を打ち倒すお姫様の時代ですよ。むしろ王子様は助けられる展開です」
「ええ……。そうなんですか?」
「王子様を助けるお姫様がいてもいいじゃないですか」
「まあ、大切な人は助けたいですけど。勇者さんがお姫様役なら攫いに来ますね!」
「魔王さんにとって、私はどういう人ですか」
「なんですか、急に」
「いいから教えてください」
「そりゃ、とっても大切な人ですよ。世界で一番大切で大事で大好きな人です」
「それはどうも」
「視線が遠いんですが」
「魔王さんにとって大切な人である私のことを、あなたは守ってくれますか?」
「もちろんですよ。ぼくの力の限り守ります」
「それが聞けて安心しました」
「勇者さんが穏やかな笑みを……。え、あの、なんですか? 熱でもあるんですか?」
「ふふ、いえいえ。うれしいなと思いまして」
「そうですか。いつもと様子が違うので心配しました」
「私のことを大切にしてくれる魔王さんに、私直々にすてきな愛を贈呈します」
「ん……?」
「これは私が寝る間も惜しんで夜な夜な制作したスペシャル愛玉です」
「ぐっすり寝ていましたよね」
「布団の中であと五分と言う魔王さんを横目に微笑ましいと思いながら愛を詰めました」
「朝が弱いぼくを恨めしく思いながら火薬を詰めたんですね」
「いつ渡そうか悩み、心のうちに秘めることはや数十分」
「作ったばっかりじゃないですか」
「今日こそ魔王さんに自分の想いを伝えようと決心したのです」
「四肢爆散してくださいと頼む決心ですね」
「と、まあ、茶番はこれくらいにして」
「茶番って言った。茶番って」
「魔王さん、本気でこの愛玉――じゃなくて、爆弾もらってくれませんか」
「いやですよう。四肢爆散するってわかっているのに」
「このままだと私も死ぬんですよ」
「はい? あれ、何かが焼ける音が……」
「この会話が始まる前にやっておいたんです」
「なにを」
「着火」
お読みいただきありがとうございました。
着火は直前に行いましょう。
魔王「ぼくたちも世のこどもたちの手本となるような人生を送ろうではありませんか!」
勇者「登場シーンで背景に爆発みたいな?」
魔王「ぼくはキラキラでピュアピュアではぴはぴな方が……」
勇者「爆弾ならお手伝いできたんですけど、残念です。失意の底で爆死してください」
魔王「勇者さんは深夜枠ですよね……」




