249.会話 お風呂の話
本日もこんばんは。
健全なお風呂回です。
「勇者さん、お湯加減はいかがですか~? 熱くないですか~?」
「ほど良いです」
「そうですかそうですか~。では、失礼してぼくも一緒に――」
「入ってきたら殺しますよ」
「ええん……。いいじゃないですか、少しくらい。女の子同士なんですから」
「扉を挟んでいるからなにを言っているか聞こえません」
「お背中流しますよ!」
「結構です。なんで毎日毎日お風呂に入ってこようとするんですか」
「だって、勇者さんがお風呂の使い方がわからないって言うから」
「いつの話してんですか」
「お湯を出したいのに水しか出てこなくて助けを求めた勇者さんは忘れられません」
「忘れろ忘れろ」
「挙句、水が盛大に吹き出したので寒さのあまり浴室からありのままの姿で飛び出してきた勇者さんも忘れられ――おっと、あれは事故ですからね。ぼく悪くないです」
「……あれに関しては私が悪いので何も言いませんけど」
「それ以来、お宿に泊まるたびにお風呂の使い方を確認するようになりましたよね」
「……そうですね」
「ぼくと一緒に入れば確認しなくてもいいのに」
「絶対いやです。そもそも、なんで宿によって蛇口の形やら場所やらが違うんですか。ぜんぶ一緒にしてくださいよ紛らわしい」
「たまにわかりにくーいやつありますよねぇ。ぼくも迷うことがありますよ」
「オシャレ具合とかいらないのでわかりやすさを重視してほしいです」
「今日のお宿の設備もお初でしたよね。あれ、ぼくと確認しましたっけ?」
「……今日のは知っているものだったので」
「そうですか。それなら安心です。ぼくの出番がなくてさみしいですけど」
「ところで、いつまでそこにいるつもりですか。見えないとはいえ気になります」
「いざという時にすぐ駆けつけ――入れるようにです!」
「言い直したくせに余計にだめになっていますよ」
「勇者さんとおしゃべりするためにはここにいないと声が聞こえないんです」
「お風呂出てからでいいじゃないですか」
「お気になさらず!」
「私が気になるって言ってんだ」
「じゃあ、一緒に入っていいですか?」
「じゃあってなんですか、じゃあって」
「ハッ! 人の姿ではなく動物の姿になればいいんですね?」
「よくないですけど」
「勇者さんチョイスの動物になりますよ。なにがいいですか?」
「だから入って来るなと」
「本来なら水が苦手な動物でも、ぼくが変化することであら不思議! 一緒にお風呂に入れちゃうんですよ~。わ~い」
「やかましいわ」
「お風呂に入っているのに勇者さんが冷たい……」
「まじでやかましいですよ。浴槽に沈めましょうか?」
「一緒にお風呂ですか⁉」
「粘りますねぇ。でも、無理やり入ってくることはしないんですよね」
「押し入ったら勇者さんに本気で嫌われると思いまして」
「その自覚はあるんですね。なら諦めてください」
「ぐすん……。ぼくは諦めませんからぁ……」
「……はあ、やっと静かになった」
「ところで勇者さん、今日の入浴剤のご感想は!」
「まだいた」
「今日はゆずの香りの入浴剤です。保温効果と保湿効果がアップしますよ」
「ゆず湯を思い出していい感じです」
「お風呂の後に湯冷めしてはいけませんからね。体がぽかぽかするものを選びました」
「ありがとうございます」
「いえいえ~。そして、ぼくはぽかぽかになった勇者さんを抱きしめてあたたまります」
「やはり浴槽に沈めるしかないようですね」
「入浴剤の色で発見されないおそれがありますが」
「しわしわになればいいです」
「おばあさんになるまでぼくと一緒にいたいということでよろしいですか?」
「はあ……。やかましいわ」
「あ、ほんとにめんどくさそうな声だ」
「あばばぶぶあうあうばうばばうあう」
「お風呂でぶくぶくしているんですか? かわいですね、録画させてください」
「どうやって魔王さんを浴槽に沈めるか考えているんです」
「どうがんばっても浴室の外にいるので無理ですよ~」
「……。魔王さん、一緒にお風呂入りましょうか」
「エッ⁉ い、いいんですか⁉ ホントに⁉」
「ちゃんと死ぬならいいですよ」
「ちゃんと死ぬってなんですか」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは浴槽があるならゆっくり浸かりたいタイプです。
魔王「一緒にお風呂に入れたらうれしさで死ぬと思います!」
勇者「よく言う」
魔王「扉一枚なのにこんなにも心が遠い……」
勇者「物理的に離れてほしいのですが」