248.会話 金の斧銀の斧の話
本日もこんばんは。
童話系シリーズから本日はイソップ寓話のご登場です。
「あっ、しまった。小型ナイフを池に落としてしまいました。……まあ、さっき道端で拾った物なのでいいですけど。持ち主の人、ごめんなさい」
「落とし物で届けに行く途中に不運でしたねぇ。ですが勇者さん、池の中から女神が現れて『あなたが落としたのはこの金のナイフですか? それとも銀のナイフですか?』と言ってくるかもしれませんよ」
「落としたのはただのナイフですよ」
「正直者の勇者さんにはすべてのナイフを差し上げましょう! わ~ぱちぱち~」
「……なんの話ですか?」
「そういう童話があるんですよ。童話ではナイフではなく斧でしたが。正直者は得をし、欲張りな人はすべてを失う。とってもわかりやすい教訓ですね」
「おむすびころりんみたいですね。童話には正直者と欲張りが出てこないといけないルールでもあるんですか」
「そういうものなんですよ。勇者さんは正直者だったので、女神様もにっこりです」
「嘘をついたら普通の斧まで持っていかれてしまったってことは、泉の女神様は斧コレクターってことでしょうか。珍しいな……」
「またそういう解釈を……」
「ていうか、斧の材質としては、鉄が一番使いやすいと思うのです。金や銀の斧なんか使います? まだ金貨の方がいいですよね」
「あんまり考えたことがなかったもので……」
「女神様も金や銀の斧なんか持っていてどうするのでしょう。泉の中の生活も斧が必要なワイルドライフなんでしょうかね」
「女神様が斧を振りかぶっている姿はちょっと見たくないですね」
「欲張りさんから鉄の斧を奪うより、きこりを泉に引きずり込んだ方がはやいですよ」
「ただの誘拐ですね」
「泉に落ちたら金のそれと銀のそれと元それが出てくるんですよね。……ふうん」
「なにゆえぼくを見ているのでしょうか。いやですよ」
「まだ何も言っていませんよ」
「ぼくを泉……ここでは池ですが、池に落として金や銀のぼくが出てくるかどうか実験しようとしているのでしょう? いやですよ、びしょ濡れになっちゃいます」
「金の魔王さん、銀の魔王さん……ふふっ……金ぴか……あっはは」
「絶対いやですからね。ぼくが金ぴかになって誰が得をするのですか」
「誰も」
「せめて勇者さんと言ってください」
「泉の女神様は、落ちてきた鉄の斧を見てどう思ったのでしょうか」
「どう、とは?」
「女神様は泉に住んでいるんですよね。頭上から斧が降ってきたらこわくないですか?」
「危機一髪回避女神様説⁉」
「私だったら鉄の斧を手に殴り込むと思います。なにしてんだこらぁって」
「キレた女神様が泉から飛び出てきたらホラー映画かと思いますよ」
「某子さんは女神様だったのでしょうか。結構お姿似ていますよね」
「あちらは井戸じゃありませんでした?」
「井戸の水は泉から引いているんですよ、たぶん」
「なるほど。……なるほど?」
「もしくは、彼女たちは姉妹なのかもしれません。独特な姉妹ですね」
「勇者さんに言われたくはないでしょうね。……勇者さん? 池を覗いても誰もいませんし、ナイフも取りに行けませんからね」
「池だけに?」
「やめてくださいぼくがギャグを言ったみたいになるじゃないですかそんなつもりはありませんぼくは勇者さんを心配して言っただけです今のギャグなんてめちゃサムイですよ」
「池の水、冷たいですもんね」
「そういう意味じゃないですぅ!」
「まあ、それはいいとして」
「よくないですけどぉ……」
「斧三本もいりませんよね」
「そこですか」
「斧なんて一本でいいですし、刃渡りや用途の違うナイフ三本の方が実用的ですよ」
「きこりさんが斧を使うお仕事の人だからじゃないですか?」
「山で見かけたきこりが金の斧で木を切っていたら見なかったフリをします」
「たしかにちょっと異質ですけども」
「銀の斧だったら二度見します」
「遠目ならわからないかもしれませんね」
「やっぱり斧は鉄ですよ。女神様は世間を知らないようですね」
「泉の中にいますからねぇ」
「……あ、魔王さん。枝にナイフが引っかかっているのが見えます。取れそうです」
「あ、危ないのでぼくが。えーっと、ほんとですね。手を伸ばせばぎりぎり……。あ、勇者さん、ぼくのこと押さないでくださいね」
「わかっています。フリですよね」
「フリじゃないですほんとに押しちゃだめですよ!」
「任せてください。私は正直者なのでしっかり押します」
「だからフリじゃないですってばぁ!」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは正直者なのでしっかり押しました。
魔王「押さないでくださいと言ったのに~……」
勇者「それで押さなかった人はあとから『押してって意味なんだよ』と言われていましたよ?」
魔王「あれは特殊な場合だけですよう」
勇者「正直に生きるのは難しいですね」