247.会話 妖精女王からの招待状の話
本日もこんばんは。
勇者さんに招待状が届いたようです。
「ただいまです~。今日はお魚が安くて新鮮でおいしそうでしたので買って――って、なにをしているんですか?」
「手紙を読んでいるんです」
「勇者さんが手紙を……。ハッ! まさか、妖精女王⁉」
「はい。魔王さんが買い出しに出かけたのを見計らって妖精が届けてくれました」
「ぐぬぬ……。やっぱり近くで様子を窺っていましたか……。というか、読めました?」
「ええ。私でも簡単に読めるくらい易しい文章で書かれていたので。良い意味で幼いこどもが書いたような手紙でしたね」
「燃やしましょう!」
「だめです。以前いただいた手紙も、結局読む前に魔王さんに燃やされてしまったのでこれは渡しません。しかもこれ、ただの手紙じゃなくて招待状のようですよ」
「げっ」
「嫌そうな顔ですね。これを持っていれば妖精の楽園という場所に辿り着けるそうです」
「い、行くもんじゃないですよ。今すぐ燃やしましょう」
「一応、取っておこうかと」
「なぜですか。相手は魔族ですよ。勇者さんが倒すべき存在です」
「ブーメランに気づいておられるか」
「しかも相手は妖精女王。ぜっっっったい行かない方がいいですって」
「何があったか知りませんけど、招待状があればいつでも倒せるってことでは?」
「……あ、たしかに。ですが、彼女からの招待状が勇者さんの荷物に加わるという事実がなんかこう……認められないというか……」
「ひねくれていますね」
「とにかく、それは捨てて妖精女王のことも忘れてください。あっ、妖精たち! ぼくたちの会話を聞いていましたね! 主に伝える気ですかやめなさーい!」
「ナチュラルに居ますけど、あれも魔族なんですよね。小さくてきれいで、ちょっと気が緩みそうです。悪さはするんでしょうか」
「現在進行形で悪さをしていますよ。勇者さんにちょっかいをかけるという悪さを!」
「遊びに来てって書いてあっただけですよ」
「勇者ともあろう人が魔族のお誘いを受けるなんて言語道断です!」
「ブーメランぐっさぐさ」
「勇者さんは渡さないと主に伝えなさい! 去れ!」
「私、招待状なんて初めてもらいました。便箋がかわいいです」
「ぼくの知らない間に勇者さんが買収されている……。おのれ妖精女王……」
「おいしいお菓子を準備していると書いてあります」
「勇者さんの性格を把握している……⁉ おのれ妖精女王……!」
「魔王さんは文句ばかりだろうから置いてくるといいと言っています」
「一緒に行くに決まっているでしょう! 勇者さんに何かあったら大変です。妖精の楽園は女王の支配域です。なにがあるかわかったもんじゃありません」
「見たことない食べ物があるかもしれないってことですね」
「食べ物から離れてください」
「心を込めておもてなしをするって言われているんです。行かないと失礼ですよ」
「勇者さんが勇者であることを忘れないでください」
「すごーくおいしい食べ物をもらったら倒すのを忘れるかもしれません」
「プライドを失わないでください……」
「私にプライドなどない」
「フライドポテトあげるので……」
「招待に応じるのはしばらく先でいいでしょう。もっしゃもっしゃ」
「これで時間が稼げました……。勇者さんがフライドポテトに夢中になっている間に招待状を燃やして別のお菓子をあげて妖精女王のことを記憶から抹消しなければ……!」
「さすがにそこまでばかじゃないですよ」
「うわぁん! なんで今回は乗り気なんですかぁ」
「魔王さんの態度が原因です」
「ぼく?」
「魔王さんが魔なるものたちにつっけんどんな態度を取るのはいつものことですが、妖精女王さんへの態度はそれ以上のように感じます。つまり、暇つぶしのネタです」
「暇つぶしのためにご自分の身を危険にさらすような真似はおやめください」
「文面は優しそうですよ?」
「文章なんていくらでも繕えます。見た目だって信用してはいけません。相手は魔族。もし行くとしてもじゅうぶんすぎる警戒心を持ってくださいね」
「もしの話をしながらさりげなく招待状を盗むな」
「どう考えても罠です! 燃やすべきです!」
「返事はいらないと書かれていましたけど、この私、初めての手紙に挑戦しようかと」
「まずはぼくに書いてくださいよ。泣きますよ」
「どうぞ」
「どうぞじゃない……。ええい、こんなもの、こうです! びりぃっ! これで招待状の役目は果たせません。ぼくの勝利です。ふふん」
「魔王さんの行動を見越して招待状は定期的に送ってくれるそうです」
「では、予想だにしない行動を取るとしましょう。フライパンで炒めてやります!」
「魔王は招待状をフライパンで炒める、と書いてありました」
「うそぉ~……」
お読みいただきありがとうございました。
妖精女王さんが気になった方はいるでしょうか? ぜひご登場をお楽しみにしていてください。
勇者「フライパンで炒めるってなんですか」
魔王「ぼくにもわかりません」
勇者「妖精たちも困惑していますよ」
魔王「たぶん、ぼくが一番困惑していると思います。なんで炒めたんだろう……」