246.会話 朝型夜型の話
本日もこんばんは。
毎日起きて寝て起きている人間のみなさまはとても偉いです。
「おはようございます~勇者さん~……」
「おはようございます、魔王さん。今日もアラーム通りには起きられませんでしたね」
「びゃっ! もう十時じゃないですか! 起こしてくださいよう~」
「特に用事もなかったので。それに、あと五分地獄に巻き込まれるのはごめんです」
「気持ちはあるんですよ。五分後に起きよう! という気持ちは」
「ほんとうに朝に弱いですよね。起きるのやめればいいですよ」
「永遠に寝ていろということですか」
「そうですね」
「勇者さんと旅をしたいので起きます。別に、起きられないわけではありませんから」
「睡眠が必要ないのに寝て、朝が苦手ってどういうこっちゃですよ。ずっと起きていればいいんじゃないですか?」
「生活スタイルを人間に合わせているのです」
「一番身近な私に合わせてください」
「夜明け前に起きるんですか。それはぼく厳しいです」
「のんびり寝ていますよ」
「勇者さんのだらけ具合は他の人間と比べ物にならないというか」
「やっぱり、魔王さんは魔族だけあって夜型なんでしょうか」
「まあ……そうですねぇ。魔界は夜の世界ですし、魔なるものは夜の時間に最も力を発揮できますからね。種族の性質とでも言いましょうか。そういう勇者さんは朝型ですか」
「そういうわけではないですけどね。朝から活動できるってだけです」
「めちゃくちゃ夜型っぽい見た目をしているのに」
「やかましいですよ。そっちこそ、めちゃくちゃ朝型っぽい見た目のくせに」
「交換してみますか?」
「いいですよ。では、明日は朝五時に起きてくださいね」
「五っ……。最初はお手柔らかにお願いしますよう」
「わかりました。朝二時で」
「それは深夜というのですよ」
「深夜なら夜なので魔王さんの得意時間ですよ。起きてくださいね」
「ぼくを深夜二時に起こして勇者さんに何の得があるのですかぁ……」
「ぎりぎりの状態で起きようともがく魔王さんを見て苦笑いしようかと」
「高笑いじゃないんですね」
「深夜ですよ。ご近所さんに迷惑がかかるでしょう」
「まともな発言しないでください。ご近所さんなんかいないでしょうに」
「ちゃんとカメラも回しておきますね」
「純粋なる黒歴史なのでやめていただいて」
「そんなに朝が苦手なら、すべての時間を夜にすればいいのでは? 魔王ですし、それくらいできると思いますけど」
「太陽の光はお嫌いですか⁉」
「突然の迫真」
「夜には夜の良さが、朝には朝の良さがあるんです。ぜーんぶ夜じゃあ、日光浴もできないし植物も育ちませんよ。ぴかぴかの晴れはこの世界に必要です」
「まあ、ずっと夜だと感覚がおかしくなる気はしましたね」
「月も星も太陽も、それぞれの良さがあるのです。魔族の中にも夜間しか活動しないものもいますけど、あれらは太陽の光を知らずに生きていることになります。哀れですね」
「あんまり思っていない声色ですね」
「思っていませんからね。そういえば、朝型夜型以外に中間型というものもあるそうですよ。つまり昼型ですね。割合でいうと中間型が一番多いんですって」
「へえ。では、あとひとり増えたらそのひとは中間型ですね」
「どういう意味ですか?」
「私が朝型として、魔王さんは夜型。もうひとりは昼型でコンプリートです」
「集めているわけではありませんが……」
「コンプリート報酬はたこ焼き三皿でお願いします」
「それが目的ですね。いいですけど」
「体質的な問題なら、苦しみながら起きる必要はないと思うのです。どうせ目的地のない旅です。急かすひともいませんし、私たちが活動できる時間だけ動けばいいんですよ」
「朝型と夜型の重なり合う時間ってことですね。お優しい! どの時間帯が重なるでしょうか。やっぱり午後ですかね?」
「…………」
「勇者さん?」
「眠くなってきました」
「まだ午前中ですよ。勇者さんは今日何時に起きたんですか?」
「四時です」
「はっやぁ。なにゆえ?」
「なんとなくです。おかげでとても眠いです」
「ぼくは目も覚めて活動的になれそうです。さあ、旅を続けましょう!」
「ええー、ちょっと昼寝……」
「これでは朝寝ですよ。起きてください。天気もいいのでのんびり歩きましょうよう」
「あと五分……」
「そう言って起きないじゃないですかぁ~」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
お読みいただきありがとうございました。
「あと五分」と言われた方にはこの作品をおすすめします。五分以下で読めるのでご活用くださいませ。
魔王「五分経ちましたよ」
勇者「おはようございます」
魔王「ほんとに起きる人がいるんですね⁉」
勇者「そんなに驚くことですか」