245.会話 治癒の話
本日もこんばんは。
治癒魔法を使う魔王さんの図がおかしいはずなのにおかしく思えなくなってきた頃でしょうか。
「いいですか、勇者さん。ぼくの魔法は勇者であるきみには効きづらいのです。例の魔女っ子も言っていたでしょう? 小さなケガなら治せますが、大きなケガは無理なんですよ。ですから、ケガや病気には気をつけてくださいね。お返事は?」
「……大げさですねぇ」
「大げさではありません。人間にとっては小さな傷でも命取りになるんです」
「わかっていますよ。ごめんなさい」
「よろしい。では、二度と側溝に落としたお菓子を取ろうとしないでくださいね」
「ええー……」
「えーじゃないです。危ないですし危険ですしデンジャラスですよ」
「ぜんぶ同じ意味ですよ。危ないといっても、もったいないじゃないですか」
「お菓子と命は代えられません。以前と違い、いくらでもお菓子を食べられるようになったのですから、あまり危険なことはしないでください。もちろん、もったいないと思う気持ちは大切ですから、そのままお持ちくださいね」
「……わかりました。ところで、もう治ったので離してください」
「ま、待ってください。まだ微妙に痕があるような気がします。もうちょっとぉぉぉ」
「小さな傷でも大げさなくらい治癒魔法を使う癖、直した方がいいですよ」
「勇者さんがご自分のことを大切にしないからですよ」
「何度も言いますが、魔王が勇者を治すのがおかしいんです」
「おかしくて結構。文句言われようとなんだろうとぼくは治します。……んもー! ぼくが魔王だからぜーんぜん治癒魔法がちゃんと効いてくれません!」
「もうじゅうぶんですよ」
「ギフトで治癒能力くらいもらっておいてくださいよぉ~……。というか初期装備にしなさいよ神様! 勇者さんのことなんだと思ってんですかこのやろー! 大事にしろー!」
「治癒能力……。ああ、あれですか」
「まさか、持っているんですか?」
「いえ。ケガの処置がめんどくさかったので勝手にケガが治ったりしないかなぁって言ったことがあるんですよ。そしたら神様が『君の魂が拒否しているから無理』だと」
「なんですかそれぇ……」
「そこまで拒絶されると、あげられるものもあげられないって言っていました」
「……なるほどです。では、やっぱり勇者さんにぼくは必要ってことですね!」
「そのこじつけポジティブシンキングを治癒魔法で直してください」
「いやぁ、これはぼくの魅力のひとつですよ? もっと全面的に出していきたいです」
「じゅうぶん全面に出ているので手を離してください」
「も、もうちょっと、もうちょっと」
「もう傷跡なんかありません。手を繋ぎたいという下心が丸見えですよ」
「手を握る具合で勇者さんの健康チェックをしているんです」
「そんな便利な機能があるんですか?」
「…………えへへ」
「この手を切り落としてもいいんですよ」
「やめてください⁉ あ、ぼくの手ですか。それならいい――よくないですけど!」
「そもそも、魔王さんは不老不死でケガも勝手に治るんでしょう? なんで治癒魔法を使えるんですか。必要ないでしょう」
「最も治癒魔法が多いのは光属性ですから」
「答えになっていません」
「ぼくに必要なくても勇者さんには必要でしょう。そういうことです」
「勇者に治癒魔法は効きづらいのに」
「うぐっ……。き、気持ちの問題ですよ。いざという時に魔王を取り出してですね」
「薬みたいな言い方しないでください」
「ポシェットから『魔王~』って感じに取り出して」
「やめてください私たちは彼に勝てませんよあんなに長年君臨し続けるたぬ――」
「い、いけません。それ以上は危険です。大ケガしますよ!」
「そんな時は魔王を取り出して」
「すみませんぼくでも勝てないと思うので急いで処置をしましょう消毒液包帯ああああ」
「そういえば魔王さんって、たまに人間たちの治癒もしていますよね」
「はい。人間の命を救えることはとてもうれしいことですから」
「うーん、魔王のセリフではない」
「おかげで治癒魔法が得意になりました。えっへん」
「勇者には効果薄いんですけどね」
「悔しいです……。これまで数え切れないほどの人間を救ってきたのに……」
「魔王が光属性の治癒魔法を使っている構図がすでにおかしいのに、相手が人間だと神様も困惑が止まらないでしょうね。それに関しては万歳ですけど」
「治癒魔法が得意な魔法使いに仲間になってもらいましょうか……」
「魔王さんの頭がおかしいと思って治癒魔法をかけてくると思いますよ」
「失礼な魔法使いですね。追い出しましょう」
「世間一般では、勇者を大切にする魔王は治癒対象になるんですよ」
「なんて失礼な世界なのでしょう。ぼくが治癒して差し上げます」
「破壊するってことですか?」
「慈愛の心で魔法をかけるんですよう」
「私にかけた治癒魔法とは違う魔法陣が出ている気がしますが」
「そっぽ向いていた割によく覚えていらっしゃるんですからぁ……」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはよくケガをします。
勇者「魔王さんが治癒魔法を使いまくるので魔法陣を覚えちゃいました」
魔王「勇者さんがケガをしまくるせいですよ」
勇者「魔法陣を覚えたらその魔法が使えたりは」
魔王「しません」