237.会話 サボテンの話
本日もこんばんは。
天目おすすめのサボテンはバニーカクタスです。
「あっ、かわいいサボテン! 懐かしいですねぇ。バイト時代を思い出しますよ」
「サボテンに水をあげる仕事でしたっけ。でもこれ、水やり必要なんですか?」
「季節や種類によって頻度は異なりますが、お水は必要なんですよ。土が乾いたのが目印です。あのお仕事は楽しかったですね~」
「ほとんど仕事内容がない気がしますが」
「水やり以外にも重要なお仕事を任されていたのです!」
「へえ。なんですか」
「サボテンに話しかけることです」
「……うん」
「毎日毎日話しかけることで、サボテンが元気になると聞きました!」
「そっかぁ」
「おしゃべりが好きなぼくにとって、天職といえるでしょう」
「そうですねぇ」
「ですが、やっぱり返事がないのはさみしいことでして……」
「そうですねぇ」
「ところがある日、サボテンがしゃべりかけてきたのです!」
「そうで――は?」
「ぼくの努力が実を結んだと思って喜んだんですけど、ぼくが話しかける時に魔力を込めてしまっていたようで、魔物が生まれただけでした」
「びっくりしたぁ」
「意図せずサボテン魔物を生み出してしまい、悲しい思いをしました」
「魔王さんの魔王らしさを見た気がします。そんなことできたんですね」
「簡単にはできませんよ? だからぼくもびっくりしたんですから」
「しゃべりかけてきたって、どんな感じでしゃべったんですか?」
「流暢ではありませんでしたね。『トゲトゲ、ボクトゲトゲ、ウフフ』と」
「……あれ、ちょっとかわいい」
「おもちゃみたいな感じでしたね。水が欲しい時は『オミズゴクゴク、トゲトゲスクスク、ボクドキドキ』など。同じ言葉を繰り返すことが多かったです」
「世界の広さを感じました。……ぐぬう、サボテンで感じるとは不覚」
「昔はふと気がつくと数年経っているなんてざらにありましたから、サボテンはちょうどよかったんです。中には寿命が二百年あるものもあるそうですよ」
「長生きなんですね。まるで魔族のようです」
「魔族がみんなサボテンなら世界は平和になるんですけどねぇ」
「平和かもしれませんが、そんな世界は嫌ですね」
「お花が咲いているものもありますよ。丸いフォルムやぷにっとした見た目がかわいいでしょう? これが世界に広まればきっとかわいさで満たされますよ」
「かわいい……のはいいとして、このトゲトゲは痛そうですね。投げれば武器になること間違いなしです。試してみたいです」
「だめです。勇者さんが手をケガします」
「では、後ろから押して顔面をサボテンに当たるようにします」
「かなりガチの危険行為ですね。ぼく以外にやっちゃいけませんよ」
「大きさもいろいろありますから、小さいサボテンを服の中に仕込んでもいいですね」
「わ~、とってもいやですね~」
「でもまあ、眺めるのが一番ですね。仕込むのもめんどうですから」
「ゆっくり成長する具合がまるで勇者さんのようですね」
「どういう意味です」
「ぐーたらして動かないところがそっくりです」
「少ない水で生きるサボテンとたくさん食べる私は違いますよ」
「いえいえ、サボテンもしっかり水を飲みますよ。勇者さんと同じです」
「それにしたって、サボテンと私を同じと言うなんて」
「あ、さすがにちょっと不満ですよね。失礼いたしました」
「サボテンに失礼ですよ」
「サボテンの方ですかぁ」
「あんまり水やりをしなくていいなら、私でも育てられそうですね」
「やってみますか? 植物を育てることで安らぎを得られるかもしれませんよ」
「どうせなら食べられるものを育てたいです。モチベーションになります」
「家庭菜園でしょうか。そ、それならぜひ魔王城で」
「土壌が死んでいそうなイメージ」
「そんなことはありません。辺鄙な土地ではありますが、陽の光もしっかり当たります」
「勝手に育ってくれる植物ってないんでしょうか。水やりは雨に任せて」
「毎日お世話をして収穫することも経験ですし、自分で育てることでおいしさアップ!」
「いつも食べているものも誰かの手によって育てられたものです」
「思い入れですよ。ぼくも、お店で見たサボテンより魔王城の窓際で育てたサボテンの方がかわいく見えましたし、大事でしたよ」
「うーん。そうは言っても、サボテンを育てたってそれまでじゃないですか。観賞するにはいいかもしれませんが、見て終わりですよ」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「なにをですか」
「サボテンって食べられるんですよ」
「それを早く言ってくださいよ」
お読みいただきありがとうございました。
ネットにはサボテンのレシピがたくさんあります。世界は広いです。
魔王「植物に話しかけるとよく育つといわれているんですよ」
勇者「言葉がわかるんですか?」
魔王「それはどうでしょうねぇ。ですが、おしゃべりは効果アリってことです!」
勇者「魔王さんが毎日しゃべりかけてくるのは……まさか私は植物だったのか」
魔王「んなわけ」