232.会話 天井から音がする話
本日もこんばんは。
意味がわからないけどそのままの意味のサブタイです。
「ねえ、魔王さん。これは言いたくなかったんですけど」
「なんでしょう、勇者さん。言いたくないことは言わなくていいんですよ」
「そういうわけにもいかなくてですね。こうして布団に入っていざ寝ようとした私たちですが、睡眠を妨げることがあるでしょう」
「そうですねぇ。なんですかね、これ。不思議ですね。家鳴りでしょうか」
「天井から音がするのは家鳴りで片づけていいのでしょうか。ミシミシギシギシなど、多少の音なら一切気にせず寝られる私ですが、ちょっとこれは違うような気がして」
「ねえ、勇者さん。これは言ってもいいのでしょうか」
「なんでしょう、魔王さん。言いたかったら言ってもいいですよ」
「足音っぽいですよね」
「言うな」
「勇者さんが言ってもいいって言ったのに」
「今日泊まっているお宿、何階建てでしたっけ」
「三階ですね。少し高台に建っていて、遮るものがないので景色が良いのです」
「私たちが泊まっているのは何階でしたっけ」
「三階ですね。昼間に遠くの山々を眺めたじゃないですか」
「天井から足音がするのはおかしくないですか」
「おかしいですね。何も不思議はなくおかしいですね」
「いや、屋根に人がいればおかしくはないですよ。そうですそうです、屋根です」
「この時間に屋根にいたら、それはそれでおかしいしこわいですよ」
「魔族なら活動時間ですよ」
「魔の気配がしますか?」
「…………」
「事実から目を背けないでください」
「人間の足によく似た部位を持つ動物とか」
「そんなものいますかねぇ」
「世の中の広さをなめてはいけません。きっといます、たぶん、もしかしたら」
「ぼくが知る限りはいませんよ」
「馬の蹄とかどうですか? 似ていると思いますよ」
「とんがり屋根のてっぺんに馬がいたら、ほんとうにこわいですよ」
「屋根の上に飾りがあったじゃないですか。馬っぽかったですよ」
「風見鶏ですね。その名の通り鳥ですよ」
「今日から風見馬にしましょう。えーっと、馬の姿をした魔物がいるってことで」
「風見鶏には魔除けの力があります」
「ぐぬ……。外せ……。外して魔物を呼び寄せろ……」
「こうして話している間も音がすごいですね。ほんとうに人が歩いているようです」
「腹立ってきました。ケンカ売りに行きませんか」
「布団に隠れながら言うことではないかと」
「失礼ですね。これはあれです。防御です」
「ふわふわしていて防御面には不安が残りますよ」
「衝撃を吸収するんですよ。天井に敷いて音を吸収する役目もあります」
「勇者さんのお布団がなくなりますが、ぼくと一緒に寝るということでよろしいですか」
「はあ? ばかなこと言わないでください。魔王さんは身ひとつで寝ればいいんですよ」
「さみしいことをおっしゃる……。布団を奪われても勇者さんの寝床に侵入するので問題ありませんが、さすがに音が鳴りやまないので様子を見に行ってきますね」
「問題しかない」
「まずは天井裏を確認しましょう。よいしょっと。えーっと、どれどれ……」
「……なにかいます? あ、言わなくていいです。訊いただけです」
「……。屋根を見てきますね~」
「……いまの間はなんだろう」
「ただいまです。調査の結果、わかったことがありますよ」
「やっぱり動物か何かでしたか」
「わからないことがわかりました~」
「…………」
「冗談ですって。剣に伸ばした手を戻してください」
「今のは魔王さんが悪いです」
「ごめんなさい、つい。原因ですが、動物でした。捕まえて自然に帰したのでここにはいませんが、野生動物が建物に侵入することは珍しくありません。特に、自然豊かな場所にあるとなおさら」
「動物にも人間の足音が出せるんですね」
「一度そのように思ってしまうと、それにしか聞こえなくなるのでしょうね。思い込みとはおそろしいものです」
「はあ……。これでやっと落ち着いて寝られます。布団もお返ししますよ」
「それはちょっと残念」
「では、おやすみなさ――。ねえ、魔王さん」
「なんでしょう、勇者さん」
「足音、また聴こえるんですけど」
「やだなぁ、思い込みですよ。……対抗してぼくもタップダンスでも踊りましょうか」
「深夜に突然タップダンスし始めたらこわいでしょうね」
「変な人は自分より変な人には近づかないんですよ」
お読みいただきありがとうございました。
変な人に絡まれたらそれ以上に変なフリをすると撃退できます。
魔王「それにしても、文句言いながらぼくのお布団に潜り込んできた勇者さんがかわいかっ――」
勇者「二度と泊まりませんこんな宿」
魔王「おや、宿に問題があるとは限りませんよ」
勇者「……いやなこと言わないでください」