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231.会話 好きなものの話

本日もこんばんは。

もっと初期にやった方がいいと思われる好きなものについての話ですが、231話に入れても違和感がありませんでした。

「好きな〇〇っていろいろありますけど、どうして好きなのか訊かれても好きなものは好きとしか言えなくないですか?」

「ステーキを切り分けながら言われましても。おいしいから好きなんでしょう?」

「何がどういう風に、どの辺が、どうしてそう思うのか、いつからそうなのか、とか、詳細を答えるのがめんどうだと思いません?」

「そう思うのはひねくれた人か人間嫌いの方だけですよ。勇者さんは両方に当てはまりますね」

「好きなものは好き。それ以上ツッコまないでほしいです」

「単純な興味や、その人のことをもっと知りたいという気持ちが質問として現れるんじゃないでしょうか。ぼくは勇者さんのこと知りたいですよ」

「おもしろくありませんよ」

「それは訊く側が決めることですから。ところで、どうして急にこんな話をしたんです?」

「…………」

「勇者さん?」

「魔王さんが私と同じものばかり注文するので」

「絶妙に答えになっていない気がしますが」

「うるせえんですよ。私に付き合う理由はないと言っているんです」

「ふうむ……? なんだか勇者さんの言っていることがわからないので、ぼくも勝手におしゃべりしますね。勇者さんの好きなお肉の焼き加減ってなんですか?」

「なんでも食べます」

「強いて言えば、ですよ」

「ミディアムレアですね」

「ほお。なぜです?」

「そういうやつですよ。答えるのがめんどうだし、聞いて何になるんですか」

「もー、ひねくれてますねぇ。ではお答えしましょう。ぼくはひねくれていないので」

「……どや顔がうざい」

「ぼくが質問する最大の目的は勇者さんとお話することにあります。つまり、勇者さんの答えがなんだろうと構わないんです。ぼくが訊いて、勇者さんが答える。この一連の行動に意味があるんですよ」

「私の回答はどうでもいいんですか」

「ええん、そんな目で見ないでくださいよう。構わないとは言いましたけど、どうでもいいわけではありませんよ。きみの好きなこと、きらいなこと、思っていること、そのすべては意味に内包されるのです」

「よくわからないです」

「それだけステーキを頬張っていたら脳も働かないでしょうね」

「食べればわかります。最高に美味です」

「食べなくてもわかりますよ。勇者さんを見ていれば」

「でも、絶対食べた方がいいですよ。人生損しています」

「勇者さんが言うと説得力がありますね」

「つまるところ、魔王さんは私の好きなものが知りたいということですか?」

「うーん、まあ、それも合っていますね」

「私の好きなものは金と食べ物です」

「欲望に忠実」

「お金なんてあって困るものではありませんし、食べ物は生命に必要不可欠でしょう」

「それっぽい理由ですが、本音は?」

「実体のあるものしか信用できません」

「サンテグジュペリが泣きますよ」

「泣きゃいいんですよ。きれいごとで生きていけるほど、世の中甘くありません」

「王子様も逃げ出す言い分ですね」

「逃げる前に王冠を置いていけ」

「お肉を切りながら言うのやめてもらっていいですか」

「魔王さんはどうなんです。好きなもの、ひとつやふたつあるでしょう?」

「そりゃあ、ありますよ。でも、ぼくの場合は物より者ですかねぇ」

「はい? ちょっと肉汁が溢れた音で聞こえませんでした。もう一回お願いします」

「勇者さんとの旅が好きだと言ったんです。こうして食べるご飯も、毎日決まって言う『おはよう』も『おやすみ』も好きですよ」

「背後にサンテグジュペリがいます?」

「ぼくの本心ですよう!」

「私にだって、目に見えない大切なことがありますよ。睡眠です」

「勇者さんのそれは惰眠です」

「失礼ですね。寝なきゃ死ぬでしょう」

「勇者らしく優しさとか思いやりとか言わなきゃダメですよ。……嘘でも」

「最後の小声は聞かなかったことにしますね。でも結局、目に見えて手で触れるものの方が記憶に刻まれやすいんですよ」

「そうですかねぇ」

「ピンときていないようですね。そんな魔王さんに良い例がありますよ」

「というと?」

「ステーキです。このおいしさにはサンテグジュペリも王子様も頷くでしょう?」

「サンテグジュペリに対抗しなくていいんですよ、勇者さん」

「大切なものが金で買えることを教えてやらなきゃ気が済みません」

「ケンカ売られたわけじゃないんですから」

「事実、世の中、お金で買えるものの方が多いと思います」

「…………。買えないものもありますよ、きっと」

「たとえば?」

「人の気持ち……とか」

「私を食べ物や宿で釣った魔王さんが言います、それ? それらはお金が必要でしょう」

「……えっへへ。そ、それ以外もちゃんと理由にあげましたよ⁉」

「じいっ…………」

「あははは~。えーっと、その~」

「じいっ…………」

「サンテグジュペリ、完敗。乾杯~!」

「……逃げた」

お読みいただきありがとうございました。

魔王さんにとって一番大切なことは目に見えています。


勇者「そもそも、食べている時に話しかけられると食べられないじゃないですか」

魔王「食事中は会話が弾むものでは?」

勇者「食べ物に失礼です」

魔王「一理ありますね」

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