23.会話 雲の話
本日もこんばんは。
雲の話です。空を見上げながらお読みください。
「たまには寝っ転がって空を眺めるのもいいですねぇ」
「堕落した生活は至高……。ああ、あの雲がミートソーススパゲティに見えてきました……。じゅるり」
「ぼくにはただの雲にしか見えませんが」
「持ちうる眼球が違うのでしょう。あれをご覧ください。見事な天丼ですよ」
「どちらかというと親子丼でしょうか」
「ちょっとはみ出たエビのしっぽが見えないんですか! この節穴!」
「暴言やめてくださいよう。というか、どれですかエビのしっぽって。難易度高すぎるんですよ」
「これだから魔王は……」
「魔王関係ないですよ」
「私の勇者たる所以をお見せしてしまったようですね」
「勇者要素が弱いことこの上ありませんね。ちなみに、知っていますか、勇者さん」
「知らないです、パレイドリア現象なんて」
「ばっちり名前言っているじゃないですか。それです」
「心理現象の一種ですね。ほんとうは存在しないのに、自分の知っているものを当てはめてしまうものです。知らないですね」
「解説ありがとうございます。まだしらを切りますか」
「私には必要のない知識です」
「勇者さんにこそ欲しい知識ですよ。いいですか、そんなに手を伸ばしても天丼は掴み取れませんよ」
「せめて、せめてエビ一本だけでも……」
「いや、あれ雲ですからね」
「あんなにおいしそうなのに……」
「眼科行きましょうか」
「でも、食べ物と錯覚しなくても、最初からわたあめみたいでおいしそうですよね」
「雲の正体はわたあめなんかじゃありませんよ?」
「夢が壊れるので喋らないでください」
「ひどい……」
「乗ったらぽよんぽよんしそうですよね。ふわふわかな? 寝心地よさそうです」
「試してみましたが、触れませんし霧みたいなものでした」
「だから、夢を壊――、はい?」
「食べようとしましたが、掴めませんし、そもそもあれ汚――」
「ちょっと、魔王さん」
「なんでしょう?」
「雲、乗ったんですか? しかも食べた?」
「ぼく、飛べるので。ひょーいって」
「ぐう……、うらやましい……」
「でも期待外れでしたよ。雲は見上げるのがちょうどいいです」
「悟らないでください。私は、雲に棒を突き刺して、超デカわたあめを作るのが夢です」
「あ、それ楽しそうですね」
「夏によく見る雲がいいですね。わたあめの素質がありますよ」
「入道雲のことでしょうか。白く大きく、密度もありそうですよね」
「縦長のものが特にいいです。そそられます」
「手に持った木の枝、刺すにはちょっと短いですよ」
「じゃあこっち」
「いや、長すぎです」
「雲を相手に戦うんですよ。これしきの枝では勝てません」
「いつの間にバトル化したんです?」
「人類の夢である超巨大わたあめを得るため神により遣わされし勇者……。立ち塞がるは強力な嵐をまといしボス、積乱雲……!」
「入道雲と積乱雲って同じ雲じゃありませんでした?」
「落雷を受け地に落ちた勇者は、嵐に吹かれて世界の果てに飛ばされる……」
「いつの間に飛んでいたんですか、勇者さん。あ、二重の意味で」
「地の果てで見つけた一本の剣……。それは暴れ狂う積乱雲を倒す神器だった……!」
「え、まさかその枝のことですか? ちょっと曲がってるやつ?」
「勇者は剣を振るい、巨悪の魔王を打ち倒す……‼」
「うわぁぁぁ油断しました! びっくりしたぁ。ぼくの目を狙って枝を突き刺すのやめてくださいよう。というか、積乱雲のボスはどうしたんですか」
「よく考えなくてもボスっぽいキャラがいたなって」
「だからって目潰ししなくても」
「美しい雲の芸術がわからない目など必要ですか?」
「いや、天丼はわかりませんって。もう少し簡単なやつでお願いします」
「いいでしょう。では、あの雲をご覧ください。私が見えているものとは別のものが見えていたらその目を潰します」
「こわっ……。わ、わかりました」
「お答えください、あの雲の形はなに」
「デミグラスハンバーグステーキ定食!」
「残念、おろしハンバーグ定食です」
「理不尽!」
お読みいただきありがとうございました。
夏の積乱雲って強そうですよね。
勇者「空の上って何があるんでしょうか」
魔王「空の上にも雲がありますよ?」
勇者「せっかくロマンチックな雰囲気にしようとしたのに……」
魔王「えっ、あっ、と、飛んで行ってみます? 気圧とかすごいですけど……」
勇者「魔王さんを空から突き落としてレッツ討伐を」
魔王「それ、勇者さんも一緒に落ちますよね?」




