229.会話 貧乏神の話
本日もこんばんは。
ご本人は以下略。
「魔王さんと旅をするようになったことで、神様から一切の金銭がもらえなくなりました。元々給料を払うつもりもない神様なのでどうでもいいですが、自由に使えるお金がなさすぎるんですよね」
「すっごくたまーにお金をゲットするくらいですものね。お小遣いならぼくが――」
「結構です。衣食住があればじゅうぶんですから」
「もっと欲張ってもいいのに~……。勇者さんにお金が貯まらないのは貧乏神が憑いているからかもしれませんね」
「なんですかそいつは。倒したらお金が貯まるのでしょうか」
「一説では、瘦せこけた貧しいおじいさんの姿をしている、とされている存在ですね。とり憑かれると貧乏になってしまうといわれていますよ」
「なんてこったい」
「貧乏神は怠け者が好きらしいです」
「私だ……」
「人間が広めるお話っておもしろいですねぇ。実際の貧乏神は女性なんですよ。仲良し姉妹の妹の方です」
「へえ。あ、お知り合いですか?」
「はい。ですので、憑いていないことはわかりますよ。単純にお金がないのでしょうね」
「逆に胸にきますね。単純にお金が……ない……悲しい……」
「あのひと、味噌が大好物でして、よく魔王城に来ては味噌汁を作れとせがむんですよ」
「おいしいですよね、味噌汁」
「姉妹揃って味噌汁を飲みにきて、作らないと帰ってくれないんですよ。はあ……」
「煩わしいなら倒しちゃえばいいのに」
「彼女が持参するお味噌がおいしくて……えへへ」
「しっかり胃袋掴まれているじゃないですか」
「今度、勇者さんにも作って差し上げますね。焼き味噌とかおいしいですよ」
「飯テロ……。貧乏神って、ほんとうに貧乏を招く力があるんですか? もしそうなら下手な魔法よりもよっぽど強いと思うのですが」
「うーん、貧乏を招くというより、『そういうイメージが根付いてしまった』が正しいでしょうね。実際の彼女は金遣いが下手でお金が貯まらないんですよ。そのくせ、やたら奢りたがるのでお金が飛んでいく飛んでいく」
「なんというか……なんというか……。うまく感想が出てきません」
「なにかあるとすぐお財布を出す癖があるんですよ。ぼくも注意しているんですけど、全然直らなくて。お姉さんが甘やかすのも原因だと思うのですが……」
「仲が良いのはいいことですね。……姉妹かぁ」
「……今度、会ってみますか? 魔族ですけど、姉妹で旅をしているだけなので危険はありませんから。ぼくも同席しますよ」
「相手が勇者だと話は別でしょう。結構ですよ。憑かれちゃたまりませんし」
「勇者さんはむしろ貧乏を司る現人神として君臨できそうですけどね」
「ケンカなら買いますよ」
「勇者さんが強いって言ったから……。褒めたつもりだったのですが……」
「私が貧乏神だったら魔王さんの貯金に危機が訪れますよ。それは困ります」
「だいじょうぶですよ。その程度ではびくともしない額がありますから」
「……言ってみたいですね。ところで、なぜさっきからうちわを持っているのです?」
「貧乏神のイメージを踏襲した結果です」
「うちわのイメージなんですか? 遠い国では紙を利用したお金があるそうですが、それを吹き飛ばす役割ですか?」
「焼き味噌の香りを嗅ぐ用です」
「味噌かい」
「勇者さんにはほどよい風をお送りいたしますよ~」
「だいじょうぶです。静まれ」
「ぼくが一緒にいる限り、どんな貧乏神に憑かれても問題ありません。貧乏神もびっくりの金貨で殴りますから」
「魔王さんの必殺技にしたらいいんじゃないですか? 金貨アタック」
「見たいですか?」
「一度は見てみたいですよね。ぱーっと飛び散る金貨の雨」
「ぼく、それ見たことありますよ。貧乏神がやっていました」
「そういうことするからお金が貯まらないんですよ」
「ご本人は知りながらやっていましたよ」
「救いようがないですね。あ、でも、神様なんですか? それならお供えものとか」
「神様だと考えているのは人間だけです。魔族は神ではありませんから」
「ケチ具合と散財具合なら、貧乏神さんの方がよっぽど神様として崇めたいですよ」
「親しみやすさは認めますよ。力が強いので人間に変化してコミュニティに潜り込み、楽しく食事や会話をしたらその場にいた人たちの会計を勝手に済ませてしまうのだとか」
「変な魔族がいるもんですねぇ」
「とはいえ、むやみやたらにすべての人間を好んでいるわけではありませんよ」
「好きな人間がいるんですか。あ、怠け者でしたっけ。私に寄って来そうですね。自分自身を囮にして倒す方法が使えそうです」
「あれらは放っておいてもいいです。でも、勇者さんに寄ってくるのは正しいかもです」
「うわぁ、来るな。私は逃げますからね」
「あらら。……ある説では、貧乏神は優しい人を好むそうですよ、勇者さん?」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんが怠けているといつか出てくるかもしれませんね。
勇者「焼き味噌おいしいです」
魔王「はやく食べないと彼女たちが来ますよ」
勇者「嗅覚おかしくないですか?」
魔王「嗅ぎ分ける能力があるらしく」