227.会話 魔王の服の話
本日もこんばんは。
魔王さんのひらひらした服についての話です。
「魔王さんのデフォルト衣装が気になったんですけど」
「かわいいでしょう?」
「そのひらひらとか邪魔じゃないですか」
「かわいいでしょう?」
「あ、だめだ。機械と化した」
「このレースの部分とか袖の部分とかとってもかわいくて……ぼくは……」
「自分のかわいさが罪深くて困るーとか言うんでしょう。はいはい、そうですね」
「勇者さんにも着せたいなぁと常日頃から思っております」
「絶対にいやだ」
「なぜです? かわいいでしょう?」
「もう少し語彙を増やして言ってください。そんなフリフリでひらひらしてふわふわしている服なんかいやです」
「勇者さんの服もひらひらしているところある……」
「第一、そんな服で剣を振り回したら動きにくい……ん? むしろ動きやすいのか?」
「妨げるものがありませんからね。いざ、試着を」
「ひらひらの弊害ってあるんですか」
「ぼくがよく引っかかっていることはご存じかと。他には大きく広がった袖がドアノブにインして扉に衝突することがあります」
「扉ごと釣って盛大に頭をぶつけているシーンを見ましたね。さっき」
「いやぁ、困りますよ。ですが、困ることばかりではありません。このように……袖の垂れた部分に物を仕舞えるという利点がありますよ」
「袖から出てくるはずのない物を出さないでください」
「今日の夕飯に使おうと思いまして。新鮮なお魚です。まだ生きていますよ」
「どうりで袖がぐねんぐねん動いていると思いました。見ちゃいけないものを見たと思ってツッコめませんでしたよ」
「他にも大根やにんじん、たまねぎやスプーンなども入っています。じゃーん……ん?」
「……手のようなものが」
「うっふふ、あらあらおやおや、えへへへへ、あははは。……すっ」
「仕舞うな。笑って誤魔化そうとするにも限度がありますよ」
「ごめんなさい。魚を奪おうとした魔族を消し飛ばした時に千切れた腕が袖に入っていたようです。ご安心を。捨てておきますから」
「燃えるゴミに捨てた。いいんだ、燃えるゴミで」
「すべての魔族は業火に焼かれて塵になればよいのです」
「いま焼かれているのは魚ですけどね。塩焼きですか? おいしそうです」
「骨までパリッと食べられるようにしますよ。魔族の骨はバリバリに砕けてしまえばよいのですが。粉となれ」
「そんなにめんどうな魔族だったんですか?」
「ぼくの服をいじってきたんです。魔王のくせにひらひらしてんじゃねえよ! と」
「どういう罵倒ですか」
「ひどいですよね。ぼくがひらひらして何が悪いというのでしょうか」
「そうですね。勝手にひらひらしていればいいと思いますよ」
「しかもその魔族、最初は聖女だと思って襲ってきたんですよ。魔王だとわかったら『紛らわしいことをしたお詫びに魚をよこせ。さもなくばそのひらひらを引き裂くぞ』と」
「魔王さん相手によくケンカ売りましたね。よほどのおばかさんなんだなぁ」
「魔族が聖女と魔王を間違える時点で死んだ方がいいんですよ」
「辛辣な魔王さん、いいですね」
「そもそも、勇者さんのために買った魚を奪おうとしたことは万死に値しますからね」
「それとこれって一緒くたに考えていいものなのでしょうか」
「罪深さのレベル的には魚強奪未遂の方が上です」
「魔王さんがそれでいいならいいですよ」
「最後に、ぼくのひらひらを引き裂こうとした罪です。あの魔族、そのひらひらは邪魔だろうから引き裂いてやる、と言い出して」
「邪魔だと言っている点は私と同じですね」
「勇者さんの邪魔発言には心がこもっていないからいいんですよ」
「口先だけでしゃべることにも良いことってあるんですね」
「他にもたくさんひどいことを言われました。足を出すなとか黒とか赤の服を着ろとか」
「そこは好き好きだと思いますけど」
「魔王っぽい服を着ろとか」
「それはまあ、うん、気持ちはわかるよって言いたいです」
「聖女っぽい服を着るなと言われましたが、ぽいではなく実際聖女の服ですからね!」
「怒るところが違うと思います」
「いつか勇者さんにも着せてひらひら勇者さんを爆誕させようと思っていますよ」
「その際には私が責任を持って魔王さんのひらひら部分を引き裂きます」
「構いませんが、すぐに再生しますよ?」
「服が再生ってなんですか」
「この服は姿とともに変化した時のものですから。いわば魔力で作られているのです」
「へえ、便利ですね。……あれ? つまり魔王さんっていま」
「なんですか?」
「…………いえ」
「なにゆえ目を背けるのです」
お読みいただきありがとうございました。
真実に気づいた者は消されます(勇者さんを除く)。
勇者「そもそも、変化できるからほんとうの姿ってものがないのでしょうね」
魔王「勇者さん、こっち見てください」
勇者「視覚って大切だなぁ」
魔王「勇者さん」