225.会話 絵文字の話
本日もこんばんは。
うさぎさんの絵文字を乱用する天目です。
「勇者さんに手紙を描きました。どうぞ受け取ってください」
「ありがとうございます。結構です」
「捨ててもいいですが、見てくれるまで渡し続けますよ」
「うわぁ。……拝見します。なんですかこれ、絵?」
「まだ文字を読むのは苦手だと思いましたので、絵を描きました。すべての文章を絵文字によって構成したすぺしゃるお手紙ですよ」
「脳が理解しようとしてくれない」
「絵文字を見るのは初めてですか? これがにっこりマークで、これがおむすびです」
「なんでおむすび」
「今日のお昼ご飯はおむすびにしようと思いまして。中身は何がいいですか? と訊こうと思ってお手紙を描いたのです」
「そのまま訊けばいいと思いますし、いま質問を聞いたので手紙の意味が消えました」
「ぼくは勇者さんにお手紙を描きたかったのです」
「それが目的ですね。そうだと思いました。この絵文字は何を表しているのですか」
「これはエビのしっぽですね。エビ天おむすびの提案です」
「おいしそう。食べます」
「この顔は自信作です。見てください、かわいいでしょう?」
「今にも死にそうですが、魔王さんは死に顔にきゅんとするタイプですか」
「違いますよう。これは『酸っぱい!』という顔です。梅干しの提案ですね」
「最初から梅干しの絵文字を描けばいいじゃないですか」
「試したんですけど、謎のブラックホールになってしまって」
「そうでしたね。魔王さんの絵心を失念していました。むしろ、よくおむすびやエビ天が描けたと思いますよ。それだと認識できるくらいの画力になっています」
「各絵文字に対して百回ずつ練習を重ねましたから」
「努力する場所がこう、なんだろうな、それでいいなら私は何も言いませんけど」
「おかげでおむすびなら目を閉じても描けるようになりましたよ」
「おむすびは……三角の中に四角を描けば……。いえ、なんでもないです」
「個人的によく描けたなぁと思うのはこちらの絵文字です。何かわかりますか?」
「古代遺跡ですか?」
「食卓ですよ」
「あー、食卓に並んだいにしえの騎士たちがいたそうですもんね」
「それは円卓ですね。食卓だと仲が良さそうでなによりですが」
「ほぼ正解ですね」
「絶対違うと言えないところがなんとも……。あ、こっちはどうですか? 力作です」
「古代兵器パ・リピですね」
「懐かしいですね、それ。違います。勇者さんです」
「ええ……。口からビーム出ている気がするんですけど。私は出せませんよ」
「ビームではありません。これはラーメンをすすっている勇者さんです」
「どうして絶妙に難しい絵を描こうとするんですか。絵心が崩壊しているなら、なおのこと簡単であっさりした絵にすればいいんですよ」
「ぼくの頭の中にいる勇者さんがラーメンをすすっていたからですよ」
「勝手にラーメンを食べさせるな。私によこせそのラーメンを」
「お昼ご飯をおむすびからラーメンに変更しますか? お好きなものをどうぞ」
「両方で。絵文字っていろいろあるんですね。あ、これかわいいかも」
「猫ちゃんですね。動物シリーズはぼくも好きですよ」
「え、うさぎじゃないんですか」
「ワンちゃんでもあります」
「でもあります?」
「四足歩行にしておけばあらゆる動物をカバーできるかと思いまして」
「四足歩行をしているすべての生き物に謝ってください」
「ごめんなさい。で、ですが、これはよく描けたと思います。ほら!」
「おそろしい魔王の絵文字ですか? いや、そう見えて違うんでしょうね」
「おそろしい魔王の絵文字です」
「…………。そうですか、よく描けていますよ」
「がんばっても混沌と化すので、いっそバケモノを描けばいいのでは? と思いまして。世間一般の魔王のイメージをもとに描いてみました」
「逆転の発想ですね。ダイナミックで衝撃的な絵を描く画家として成功できそうですよ」
「そ、そうですか~? えへへへへへ~」
「見たら死ぬ絵とか」
「もう勇者さんったら……。絵を見ただけで死ぬわけないじゃないですか」
「私もそう思っていましたけどね、この絵文字手紙などを見ていると実際にあるんじゃないかなと考えるようになりましたよ」
「かわいらしい絵文字を詰めたかわいらしいお手紙ですよ」
「開いた時にですね……あっ脳がやばいって……なんかこう、攻撃性というか……」
「勇者さんが遠い目をしている……」
「絵文字に罪はないんですけど、次は文字で手紙を書いていただけたらと……。文字の勉強してきますね……」
「たどたどしい足取りで机に……。ハッ⁉ 勇者さんから手紙の許可が出た⁉ これが絵文字の力でしょうか。も、もう一度絵文字手紙を渡し――」
「やめろって」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんは、メールなどで絵文字を乱用するタイプだと思います。
勇者「たまにどこで使うのかわからない絵文字がありますよね」
魔王「磔にされた魔王の絵文字は人間たちの間でよく使われていますよ」
勇者「ご本人的にはいいんですか」
魔王「実際は日光浴している魔王の絵文字なんですよ」
勇者「まだ磔の方がいいですね」