221.会話 かぐや姫の話
本日もこんばんは。
サブタイの人は以下略。
「魔王さん、小包が届きましたよ。差出人は……これ何語ですか」
「えーっと、ああ、かぐや姫さんからのようです。また新作を出したみたいですね。彼女、本を出すたびにこうして送ってくれるんですよ」
「へえ、仲がいいのですね。魔王さん、魔族嫌いなのに」
「ぼくが暇な時におもしろい話をしてくれたのが最初なんです。そこから創作にハマり、今では売れっ子作家さんになったんですよ。ですから、ぼくもかぐや姫さんならいいかなと思っています」
「今は月にいるんでしたっけ。魔王さんの古い知り合いだけあって、いろいろぶっ飛んでいますね」
「静かな方が筆が進むらしく、ひとりで月に引っ越したんです。時折、地上に降りてきてはネタを探しているみたいですよ」
「うーん、スケールの大きいひとですね」
「地上でも静かなところを探すらしく、お気に入りは竹の中なのだそうです」
「竹の中。……あれ?」
「執筆の休憩にお昼寝していた時、人間に見つかってしまったのだとか」
「なんか聞いたことある展開ですね」
「ネタの予感を抱いたかぐや姫さんは、赤子に変化して人間について行ったそうです」
「判断がはやい」
「そこから人間の夫婦に愛情をもらって育てられ、あれやこれやあり、月に帰ったと」
「物語はどこに落ちているかわかりませんね」
「かぐや姫さんの成長が速かったのは魔族だからですね。人間の成長を詳しく知らないので、スピードを間違えたって言っていました」
「すくすく育ちすぎでしたもんね」
「月からのお迎えシーンは彼女のセルフプロデュースです」
「あんまり知りたくなかった裏事情ですね」
「誘われたので、ぼくも脇役で出演しています」
「よほど暇だったんですね」
「結構たのしかったですよ。またやるなら参加しますよって言ってあります」
「かぐや姫の物語再来ですか。一度、彼女にまつわる文献を消し去ってからの方がいいと思いますよ。軽率に伝説になりますからね」
「伝説になったらなったで、彼女にとっては創作のネタになると思いますよ」
「たくましいな……」
「ぼくも勇者さんの伝説を残すべく、筆を執ろうかと思います」
「残すな残すな」
「ぼくもかぐや姫さんくらいの文才があれば、世の人々を圧倒させる勇者伝説を書き残すことができるのに……」
「あなたは存在自体で圧倒しているのでじゅうぶんですよ。ところで、かぐや姫さんと言えば不思議な服を着ている絵を見たのですが」
「十二単でしょうか? すてきですよね」
「布団みたいで、着たまま眠れそうでいいなぁと思いました」
「また独特な感想を……。そういえば、かぐや姫さんって執筆する時はものすごく集中して書くひとでして、睡眠時間を削って仕事をするらしいのです。そして、すぐ眠れるように毛布をかぶって書いているのだとか。その時の姿を人間に見られ、十二単だと勘違いされたと言っていましたね」
「まじで布団だったんかい」
「重ね着がめんどくさいそうです。見た目からもわかるでしょう?」
「そうですね。私は絶対に着たくないです」
「かぐや姫さんも毛布で騙していたようですが、さすがにバレたらしいです」
「似て非なるものですからね」
「地上におりて人間のフリをし、ネタ集めをする時以外は、結構ずぼらなところがありますからね。勇者さんと気が合うかもしれません」
「毛布を被るひとの気持ちはよくわかります」
「勇者さん、お布団に包まれるのお好きですもんね。……おや? 本の他に手紙も入っていました。なんでしょう」
「その反応だと、ふだんは手紙は来ないんですか」
「そうですね。新刊だけ届いてあとはご自由にって感じなので」
「人様……人間じゃないけど、他人の手紙を見る趣味はありませんので、私は布団でごろごろしています。ごゆっくり」
「『魔王様、元気ですか? 新刊が出たのでお送りします~。ぜひ読んでくださいなぁ』」
「声に出したら丸聞こえですよ」
「聞かれて困るものでもありませんので。『珍しく手紙を書いているのにはワケがありまして、最近ちょっぴりピンチかもしれませんわ⁉』」
「魔族の言う『ピンチ』ってなんでしょうね」
「『新作のネタが思いつきませんー‼ 魔王様、助けてくださいませぇぇぇ~』」
「あー……、いや別に、私は知ったこっちゃないですね」
「『というわけで、近々会いに行きますわぁ。お待ちになっていてくださいませ~』」
「ノリが軽いですね。会いに来るって、月から来るんですか?」
「そのようです。近々ですか。はやくて二百年後くらいでしょうか?」
「近々……?」
「近々です」
お読みいただきありがとうございました。
かぐや姫さんは近々ご登場するかもしれません。近々。
勇者「魔族の方々って長生きですよね」
魔王「そうですねぇ。ぼくの知り合いはみんな長寿な気がします」
勇者「不老不死と関わっていくためには長生き必須と。私には無理ですね」
魔王「だからって離れようとしないでください。こっち来てぇぇ……」