220.会話 最果ての話
本日もこんばんは。
サブタイを見てシリアス系の話かと思った方へ。
すみません、違います。
「この世界に最果てはあるのでしょうか。あるとすれば、それは一体どこなのでしょう」
「…………⁉」
「なんですか、その驚いた顔は。なにか文句でもありますか言ってみやがれです」
「い、いやえっと、勇者さんが珍しく珍しい珍しあばぼえばべぼ舌嚙みましたぁ」
「毎日毎日歩いて旅をして、ふと思ったんです。世界の最果てがあるならば、目的のない私たちはそこに辿り着いたら終わりなのではないか、と」
「つまり、旅を終えたくないから最果てに行くようなことがあってはならない! ってことですね。だから、最果てを知ることで到達を回避しようと。なるほどなるほど。勇者さんったら、ぼくとの旅がそんなに大切だったんですね~。言ってくれればいいのに~」
「最果てがあるなら行ってみたいですよね」
「あれぇ?」
「旅がどうのなんて関係ありませんよ。ただの疑問のひとつです。魔王さんなら知っているかなって思って」
「知っているというか、知らないというか、知っていますけど……」
「知っているんですね。どこなんですか」
「どこ……。えっとですね、結論から言うと、世界の最果ては存在しません」
「はぁ?」
「圧がすごいですよう。いいですか? この世界ってとーっても広くて、人間が生涯をかけて旅をしても制覇できないくらいなんです。ですから、人間にとっては世界の果てはないのと同じことなんですよ」
「人間はどうでもいいので、魔王さんにとっての話をしてください」
「ぼくにとっても同じことですよ。そもそも、この世界とは人間界の話ですか? 魔界や冥界、天界も含めた世界の話ですか?」
「うわぁ、めんどくさい。ええい、全部です」
「それなら、やはり最果てはないでしょうね。天界には果ての概念はないでしょうし」
「仕方ありません。ないならつくりましょう」
「神になるおつもりですか」
「ここを最果てとする」
「剣を突き立てて宣言するのはよいですが、キャンプじゃないんですよ」
「例えばの話、世界が球体ならば、すべての位置が世界の最果てに当たりますよね」
「理屈はわかります」
「それなら、いま私がいるこの場所も最果て。一歩移動したところも最果てです」
「勇者さんお得意のへりくつですね」
「果てと聞くと遠い場所をイメージしますが、実際はこんなもんですよ」
「ここから遠い場所にいる人にとっては、ここも果てみたいなものでしょうからね」
「さて、ロマンチック路線が崩壊したところで」
「壊したのは勇者さんですけどね」
「世界が平坦だったら、の話をしましょう」
「それなら、いつか終わりがくるかもしれませんね」
「道の終わりはどうなっているのでしょう。崖、滝、虚無……。きっと、サスペンスドラマの定番撮影地に違いありません」
「とんでもないところで撮りますね。安全性皆無じゃないですか」
「天界の下に人間界の層、人間界の下に魔界の層、魔界の下の層に冥界。まるで世界のミルフィーユですね。イメージは生クリーム、果物、アーモンドチップ、チョコクリーム」
「ぼくとしたことが気がつきませんでした。お腹すいたようですね」
「どちらが食欲をそそられるかと訊かれたら、平面ワールドです」
「ついに食欲って言っちゃいましたね」
「崖ってミルフィーユの外側に似ていません?」
「崖を見て食べ物のことを考えたことがなくて……」
「最果てに虚無が広がっていることも考えましたが、真っ黒な空間がチョコレートの断面にしか思えませんでした。ガトーショコラ、ブラウニー、フォンダンショコラ……」
「……ちょっとわかってしまうのがなんとも」
「私、世界の最果てでガトーショコラを食べる夢ができました」
「独特な夢ですね。応援しますよ」
「ガトーショコラも改名して、最果てショコラにしたらどうでしょうか」
「説明書きが必須になってしまいますよ」
「闇のように濃厚で、虚無のように深く沈む極上の甘さをご賞味ください」
「わぁあぁぁ食べたいやつ! やめてくださいよう!」
「その隣に世界ミルフィーユも置いておきましょう。これひとつで無数の世界を味わえるとかなんとか書いて」
「お菓子屋さんになるおつもりですか」
「歩き疲れて甘いものが食べたいのです。どうですか、最果てショコラ」
「どうですかって、勇者さん考案ですからどこにも売っていませんよ」
「ないならつくりましょう」
「さっきも聞きましたね、それ」
「ここを休憩場所にする」
「それは構いませんが、お菓子作りに必要な道具がないのでお宿を探しましょうね」
「動きたくないです。なぜならここは最果てだから。果てなので動く場所がありません」
「世界球体説を唱えるならば、世界ミルフィーユはなしです」
「世界はひろいなーおおきいなーへいめんだなーミルフィーユだなーだなー……」
お読みいただきありがとうございました。
最果てショコラも世界ミルフィーユも魔王さんが作ってくれました。
勇者「これらを世界に広める旅をしましょうよ」
魔王「そんなに気に入ったのですか? うれしいです」
勇者「世界おいしい」
魔王「ミルフィーユまで言わないと神みたいになりますよ」