22.会話 髪の話
本日もこんばんは。
髪の話です。ヘアアレンジに使われる勇者さんと絶対逃がさないマンの魔王さん。
「勇者さんの髪、長くてきれいですよね。なんのコンディショナー使っているんですか」
「同じ宿に泊まっておいて訊きますか」
「長いとヘアアレンジが楽しいです」
「ご自分の髪でやって、どうぞ」
「やりにくいじゃないですか。それに、いろんな勇者さんが見られて一石二鳥です」
「どうせ戻すんです。手間をかけてもムダですよ」
「そう言うわりにいじらせてくれる勇者さん、好きですよ」
「動くのがめんどうなんです」
「息はしてくださいね」
「魔王さんの髪も白くて長くて……」
「き、きれいですか⁉」
「ところてんを思い出します……」
「毛先をしゃぶるのやめてもらっていいですか」
「おいしくない……」
「当たり前です。さては勇者さん、空腹ですね?」
「どっかの誰かさんが私の髪をいじり始めて朝ごはんを食べさせてくれないから」
「いやあ、楽しくて」
「ちょっとだけと言ってから、二時間ほど経ちました」
「申し訳ないとは思っています」
「なら行動で示してください」
「いまやっているアレンジが終わったらご飯にしましょう」
「虚無です」
「もうすぐ終わりますから」
「髪が長いのもめんどうです。洗うのも乾かすのも大変ですし、結うのもめんどうです」
「でも切らないんですね。あ、切るのもめんどうって言います?」
「いえ、暖かいんです。寒さをしのげます」
「ん……?」
「それに、いざという時は売ってお金にできますし」
「あの……?」
「長い髪は短い髪より利便性があるんですよ」
「息をするように闇を垣間見せるのやめてくださいよ」
「息をしろと言ったのは魔王さんでしょうに」
「呼吸のことですよ。酸素を取り込む行為です。血液中の二酸化炭素を減らしてください」
「多くの二酸化炭素を生み出して作られた食事が私を待っているのですが」
「世界は犠牲の上に成り立っているんですよ」
「魔王さんが言うと意味が変わりますね。重いです」
「ぼくがのしかかっていますからね」
「いや、まじで重いです。なんですか?」
「あったかいと言っていたので、どんなもんかと」
「その頭から生えている白い毛はなんですか?」
「白と黒なら、黒の方があったかそうじゃないですか」
「染めればいいでしょう。おや、こんなところに墨が」
「そんな都合よく墨はありません。ぼくは知っていますよ。昨夜、勇者さんが店で墨を買っていたのを」
「イカスミパスタを作ろうかと思いまして」
「スミはスミでも、それは墨汁ですよ」
「命に配慮した結果です」
「頼めばスミくらいくれるでしょうよ」
「勇者の三分クッキング~~。今日は暗黒ところてんを作りますよ」
「イカスミパスタはどこへ?」
「いつも思っているんですが、魔王さんの髪、光を反射してとっても眩しくて……」
「き、きれいですか⁉」
「眩しくてうざいなって」
「眩しくてうざい⁉」
「なんで白なんですか。青色とか緑色とか、目に優しい色にしてくださいよ」
「勇者さんは何色がいいんですか?」
「緑ですね」
「草と同じだからじゃないですよね?」
「そわ……」
「ぼくが言うのもなんですが、墨汁じゃなくて緑の染料を買うべきだったのでは……」
「探したんですけどありませんでした。無念」
「それは残念でしたね。無念だからって墨汁をかけようとするのやめてくださいね。右手、鎮めてください」
「これは私の意思ではありませんよ。うずく右手は誰にも抑えられません」
「はいはい。ほら、できましたよ。かわいいです。鏡をどうぞ」
「やっとご飯にありつけます。髪はどうでもいいです」
「そう言わずに。自信作です」
「私の目がおかしいのかもしれませんので、何を作ったのか訊いてもよいですか」
「魔王特製ハイパーアルティメット超デカスペシャルチョコレートパフェです」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはその日、緑の染料を探しに出かけました。
勇者「髪をいじられるの、もう拒否できないので諦めましたけど、せめて朝食後にしてください」
魔王「なるべく長い時間、ヘアスタイルばっちりの勇者さんを見たいんですよ!」
勇者「強大な力の前で敗北する勇者の図」
魔王「そこまでうなだれなくても……」




