219.会話 横断歩道の話
本日もこんばんは。
誰もが一度はやった『あのゲーム』についてのお話です。
「あ、魔王さんいま死にましたよ」
「えっ、な、え? なんですかどういうことですか?」
「横断歩道の白線からはみ出したでしょう。死にましたよ」
「い、生きていますけど……?」
「死にました。白線から出るとサメに食べられて死ぬのです」
「サメなんていませんけど……。あっ、なるほど。ゲームですね?」
「即死です」
「ずいぶん恐ろしい遊びですね。勇者さんが横断歩道を渡る時だけ歩幅を変えるので何かと思いましたが、こんなことをしていたとは」
「大海原に浮かぶ数枚の板、その下にはお腹をすかせた獰猛なサメが大量に……。踏み外したら即死のどきどきはらはらシチュエーションゲームです」
「楽しそうでなによりです。青信号のうちに渡ってくださいね」
「魔王さんこっちこないでください!」
「わぁぁなんですか⁉」
「一本の白線にはひとりまでしか乗れないんです。重量オーバーで落ちて死にます」
「す、すみません。勇者さんが横断歩道で遊んでいるので心配になってしまって」
「だいじょうぶです。この辺り、廃れた信号機と横断歩道があるだけで人の気配はしませんから。これらも使われるのは久しぶりでしょう」
「使われていないのにサメはいるんですね」
「サメはいつでも私たちのそばにいますよ」
「ここ、すっごく山奥ですけど、言わないでおきましょう」
「サメだけじゃありません。場所によって死に方はいろいろあります。山奥なら、スナイパーが狙っているとか、クマに襲われるとか、謎の手に引きずり込まれるとか」
「どこから出てきたんですか、謎の手」
「そこにツッコむならスナイパーにもツッコんだ方がいいですよ」
「山なのでありえそうだなぁと思ってしまって」
「他にも、白線からズレた瞬間に体が真っ二つとか」
「なにゆえなのです」
「そういう設定ですよ。横断歩道にサメがいるわけないでしょう」
「自らゲームの崩壊を……」
「横断歩道って道を安全に渡るためにあるものでしょう? それが一転、命を脅かすデスゲーム装置になるおもしろさが癖になります」
「想像力豊かに物事を楽しむ姿勢は大変すばらしいですよ」
「一本の白線には一秒しかいられない、片足でしか移動できない、目隠しで進む」
「目隠しはふつうに危ないので良い子は真似しちゃだめですよ」
「青信号が点滅し始めたら白線が減る」
「地味に距離がありますけど、だいじょうぶでしょうか」
「赤信号になったら強制ゲームオーバーです」
「なるほど、ゲームっぽいですね。ぼくもやってみます」
「えいっ」
「おっとっと⁉ あわわ、さっそく白線からはみ出してしまいました」
「即死です。魔王討伐完了」
「息をするような裏切りに遭いました。これが白線ゲーム……燃えてきました!」
「燃えるような気温じゃないですけどね。山奥だけあって冷えます」
「太陽の光も当たっていませんもんね。体が冷えないうちに山を越えましょう」
「あっ、白線」
「おっとぉ⁉ というか、白線しか踏めないとなると、この先の道はどうすれば……」
「横断歩道はここまでですからね」
「では、白線ゲームはここまで――」
「死にますよ!」
「わぁぁぁ⁉ び、びっくりさせないでください。いつまで続けるんですか~」
「いやぁ、魔王さんの反応が良くてつい」
「ぼくで遊ばないでくださいよう。ぼくと遊ぶのなら大歓迎ですが」
「私、ここから動けません」
「ゲームを終了すればいいと思いますよ」
「いえ、さっき嫌なことを感じまして」
「いやなこと? 魔の気配ですか? ぼくは感じませんが……」
「いや、そういうのではなく。しゃがんでいる状態から立ち上がれないワケの方です」
「疲れちゃいましたか? ぼくが引っ張りますよ」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいバランスが」
「バランス? そーれ」
「待て待て待てああああ」
「わああぁぁあいたぁ⁉ な、なんで滑って……。勇者さん、おケガは……」
「ないです。魔王さんがクッションになりました」
「それならよかったです……。横断歩道で滑るってどういうことです……」
「気温の低さや太陽の当たらない場所にあることで、白線部分に薄い氷ができていたんでしょうね。白線って滑りやすいんですよ」
「それを先に――っていうか、白線を踏む方がデスに近づくじゃないですか」
「危険なので渡るもんじゃないですね、横断歩道」
「それだと本末転倒ですよ」
「実際、転びましたもんね」
お読みいただきありがとうございました。
他にも、縁石から落ちたらサメに食べられるゲームもやりました。危ないのでやめましょう。
魔王「ところで、なぜサメなのですか?」
勇者「みんなのアイドルだからです」
魔王「説明になっていないような」
勇者「サメに食べられる想像をしたことがない人がいるのでしょうか」