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218.会話 シンデレラの話

本日もこんばんは。

そろそろ言わなくてもいいかと思いますが、シンデレラさんご本人は当然登場しません。

「靴を片方だけ落とすってあります? しかも階段で」

「なんの話かと思ったら、シンデレラを読んでいたんですね。文字の勉強によいと思って差し上げた童話集、ちゃんと読んでくださっているのですねぇ。うれしいです」

「零時になったら魔法が解けるって言われたのに、ぎりぎりまで舞踏会にいるのもどうかと思います。余裕をもって行動するべきですよ」

「きっと、楽しくて時間を忘れてしまったのですよ。憧れの舞踏会だったのでしょうし」

「意地悪な継母たちが帰ってくる前に家にいないと怪しまれるでしょう? 私だったら先回りして証拠を消します」

「何食わぬ顔でお出迎えするんですね。賢いです」

「魔法使いも魔法使いですよ。零時じゃなくて深夜二時くらいなら多少余裕もできたでしょうし、シンデレラの帰りが遅いなら様子を見に来たっていいはずです。この魔法使い、どういう立ち位置なんでしょうね。気に入った子に魔法をかけて舞踏会行ってこーいってやりたいだけですか?」

「もうちょっと素直に物語を楽しんでほしいです。あれ? 素直に読んだからこうなっているのでしょうか?」

「それにしても、シンデレラという人、羨ましいですね」

「おおっ! 勇者さんもそう思うんですね! シンデレラさんはあらゆる人たちにとって憧れのプリンセス。華々しい舞踏会からガラスの靴をもとに自分を探す王子様、そして結ばれるふたり……。まるで夢のような物語ですよね!」

「かぼちゃの馬車なんて、私も乗ってみたい……」

「……うん、そうですね。かぼちゃの馬車、気になりますよね……」

「実際に食べられるのでしょうか? 乗り心地はどんな感じなのでしょうか? かぼちゃの香りがしたら乗っている時にお腹が減ってしまいそうです」

「かぼちゃをもとに作った馬車であって、かぼちゃそのものではないと思いますが……」

「馬車になったかぼちゃを作った農家の方と握手を交わしたい気持ちです。ありがとう」

「あれって無断使用なんですかね? ぼくが知る限りは描写がなかったような」

「盗品かぼちゃの馬車っておもしろいですね。舞踏会から帰ってきたらかぼちゃ農家の人が怒っていたりして」

「知りたくないシンデレラの裏事情ですね」

「ガラスの靴ってのもおかしな話ですよねぇ」

「シンデレラの物語すべてにつっかかる勇者さん、いいと思います」

「ガラスって透けるでしょう? 靴単体ではきれいでも、履いたらそこまで美しい見た目にはならないと思うんですよ」

「ぼく、履きにくくないのかなぁと思いました」

「すごく滑りそうですよね。もしかして、シンデレラさんはかなり頑張っていた……?」

「そうなると、靴が脱げちゃうのも頷けますね」

「ドレスを着てガラスの靴を履いて、階段を走って下りるなんて正気ではありません。靴片方といわず、両方とも放り出して走るべきです。ケガをします」

「がんばっているとわかり、シンデレラさんの心配をし始めましたね」

「靴が履ける女性を探す王子様もおかしいんですよねぇ」

「いっそのこと、一文ずつ語り合いながら読みます?」

「靴のサイズが同じ人だっているでしょうし、一体何人の女性がいると思ってるんだか」

「きっと、魔法の靴だからシンデレラさんにしか履けないようになっているんですよ」

「ほら、それもおかしい」

「えっ、どこがですか?」

「魔法は零時で解けるんでしょう? かぼちゃの馬車もドレスも消えたのに、なんでガラスの靴だけ残っているんですか」

「……あれ、たしかに。き、きっと、ガラスの靴だけ特注で作ったんですよ。現実の物だから、零時を過ぎても消えないんです」

「それならシンデレラさん以外も履けてしまいます」

「そこはほら……魔法の力でほら……シンデレラさん以外だめですよーって……」

「ガラスの靴を履けた女性を見つけた王子様は、シンデレラさんと結婚するんですよね。この流れ、意味わかんなくないですか?」

「舞踏会の時に恋に落ちていたんですよ。好きな人を探し出し、結ばれたいと思うなんて、ピュアでかわいいじゃないですか」

「舞踏会でちょっと踊った相手が落とした靴を頼りに探し出し、結婚を申し込む王子様」

「その通りですね」

「ええー……」

「なんでちょっと引いているんですか。すてきなお話だと思いませんか?」

「よく知りもしない相手と突然結婚は勇気ありますね。シンデレラさんも王子様も」

「それは……これから知っていけばいいのです! 愛の力です!」

「愛だけじゃどうにもならないことはありますよ。たぶん」

「そんなこと言わないでくださいよう」

「あと、この王子様、ちょっとストーカーの素質ありますよ」

「勇者さん、勇者さん、それ以上はみなさんの憧れを守るために言わ――」

「シンデレラさんが絶望しないといいのですが」

「王子様にもいいところはありますよ、絶対!」

「でもまあ、物語を読む限りシンデレラさんはかなりたくましいので、だめだと思ったら自分から王子様を振って別の人を探すでしょうね。がんばれシンデレラさん」

「勇者さんのシンデレラさんへの好感度が高いことしかわかりませんでしたよ」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんはあくまで物語を素直に読んで受け取り、抱いた感想をもとにしゃべっています。


勇者「会ってみたいですね、シンデレラさん」

魔王「まさか、かぼちゃの馬車の乗り心地についてお訊きするのですか?」

勇者「いえ、めでたしめでたしのその後を」

魔王「幸せだといいですねぇ」

勇者「王子様の本性を」

魔王「やめて差し上げてください」

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