217.会話 家来の話
本日もこんばんは。
勇者さんには「私のしもべになりなさい」というセリフがよく似合いそうだなと思って書きました。そんな話です(違います)。
「私も便利な下僕がほしいです。不平不満を言わず命令だけを聞く下僕が」
「いやです!」
「なんで魔王さんが嫌がるんですか」
「勇者さんの下について命令を受ける存在はかわいい子がいいからです」
「……ん? すみません、ちょっと意味がわからないのですが」
「下僕、またはしもべは男の召使いのことを言うんですよ。勇者さんの家来に男はいやです! かわいいは正義! かわいいいずぱぅわぁー!」
「へえ、知らなかったです。では、家来と言い換えます。家来がほしいです」
「いやです!」
「だからなんで魔王さんが嫌がるんですか」
「ぼくがいるのに!」
「は?」
「ぼくでいいじゃないですか!」
「は? あ、すみません、意味不明すぎて心からの『は?』が連発で出てしまいました」
「ですから、ぼくがなりましょうか? と言っているんですよ」
「狂ってんですか?」
「ぼくはいつでも正常です」
「いつでも狂ってるってことですよ」
「やだなぁ、勇者さんの家来ってつまり、勇者さんのわがままを聞くお友達ってことですよね? ぼく、立候補しますよ」
「すべてが違い過ぎてびっくりしています。あれですかね、私の知る家来と魔王さんの知る家来は別物なのでしょうね。違う世界で生きているんだぁ、きっと」
「主人に忠誠を誓って仕える従者ですよね?」
「同じ世界だぁ」
「ここでの主人はお友達に、忠誠は友情に置き換えていますよ」
「都合のいい改変ですね」
「改変は得意です。えっへん」
「魔王さんの下僕しもべ家来手下家臣部下はどのくらいいるんですか?」
「大体ぜんぶ同じ意味なような……。ここでは家来に統一して言いますが、すべての魔なるものはぼくの後に生まれていますからね。そういう繋がりで言えば、すべて家来です」
「ドンにもほどがありますね」
「効果音ですか? ドォォォン!」
「これが親分なんですもんね。反発するひとも多そうです」
「ぼくじゃなくても反発するやつはしますよ。一匹残らず殺りますけど」
「魔王さんがぶち切れて魔物を滅した方がはやい気がしてきました。以前に聞きましたが、従順なものもいるんでしょう? 私、気になることがあるんですけど」
「なんでもお聞きください!」
「靴とか舐めさせるんですか?」
「ぼくにそんな趣味はありません」
「魔王といったら靴舐めだって」
「どこで仕入れたんですかそんな偏ったイメージは捨てなさい今すぐ捨てなさい」
「神様から聞きました」
「あんのやろう……。次、会ったらただじゃおかないですよ……」
「魔王さんが私みたいになっている。靴を舐めさせないなら、椅子にするんですか?」
「椅子に? まさか、四つん這いにさせて背中に座るアレですか? し、しませんよ!」
「座り心地悪そうですもんね」
「そういう問題ではないのですが……。まあ、志願するものはいますけど」
「いるんだ。やべえ奴ってことですね」
「そうですね。気持ち悪いのでやめてほしいです」
「そういう奴らは従順とは違いますよね。私はもっと、黙って斜め後ろに待機して、ただ命令だけを聞くパーフェクト家来がほしいです」
「その内容でいくと、執事やメイドでしょうか? 勇者さんは勇者ですし、パーティーを集める目的で募集してもよさそうですが」
「料理の腕がいいとなおよし」
「はい! ぼく立候補します!」
「お菓子作りができるとさらにうれしいですね」
「はい! はーい!」
「必須条件は人間と魔族以外」
「誰が応募できるんですか」
「機械人形とか? 魔王さんのなんちゃって魔王ぱぅわぁーで造れませんか?」
「オートマタですか。たしかに、家来にするには便利ですが……」
「機械の体なら死にませんし、盾にしても罪悪感はありません」
「ぼくはやっぱり、おしゃべりしたり体温を感じたりしたいですよう。笑顔を見るのが好きなんです。無表情で顔が動かないとさみしいです……」
「表情筋が死んでいる、で有名な私の隣で言いますか」
「勇者さんはたまに笑うじゃないですか。たまに」
「私が笑わなくても気にしない家来がいいですね」
「き、気にする! ぼくは気にする!」
「とはいえ、結局ひとりが一番ラクなので、収納できる家来がいいです」
「そんなひといませ――あ、ぼくはできますね。立候補! 立候補!」
お読みいただきありがとうございました。
ここでいう収納は変化魔法でカバーしようとしている魔王さん。
勇者「もし、かわいい子が私の家来になりたいと言ってきたらどうしますか?」
魔王「ぼくと戦っていただき、勝利したら認めてあげます」
勇者「訊いておいてなんですが、私の家来に魔王さんは関係ないですよね」
魔王「そうですけど……けど……」