212.会話 保護者の話
本日もこんばんは。
おふたりには『保護者』というワードは似合わないなと思いながら書きました。
「ごくたまにですが、宿に泊まる時に保護者名を求められる時がありますよね。旅人だって言ってんのに、目ん玉ついていないのでしょうか」
「安全面を考慮してのことなのでしょうが、あれはちょっと困っちゃいますよね」
「保護者ってなんですかね。年齢? 金? 外見?」
「お金でしたらぼくはたんまりと」
「いつも金で黙らせていますもんね。賄賂のように金貨を握らせる魔王さんのこと、わりと好きですよ」
「ありがとうございます‼」
「あんまり褒めていません。保護者連れてこいと高圧的な相手に金貨をあげるのは不満なんです。これからは変化でもして外見を繕ってくださいよ」
「えええ……いやですよう。ぼくはこの見た目が気に入っているんですから。かわいい女の子がふたり、最高じゃないですか」
「そこそこアウトな発言をしていることに気がついていないようですね」
「変化するにしても、どのような姿になればいいのでしょう。身長を高くして、大人っぽくグラマラスな体形に――」
「男でいいですよ」
「そんな。せめて母子ふたり旅にしましょうよ!」
「男がいた方がなめられないでしょう」
「差別ですよ! そんなこと、ぼくが断じて許しません。勇者さんとのほのぼのはっぴー旅を守るため、ぼくはこの世から偏見をなくす――って、待ってください? ぼくに変化を求めるということは、ぼくに勇者さんの保護者になってほしいってことですか?」
「妥協」
「死んだ目で言わないでください。ですが、そうですか。ぼくが勇者さんの保護者ですか。そうですかそうですか。えっへへへへ~」
「気味が悪いですね。妥協といったでしょう」
「ぼくが妥協案なら、別の案はなんだったんですか?」
「神様を保護者にする」
「そんなまさか」
「この世の終わりみたいな顔しますね。写真撮ってもいいですか」
「せめてかわいい顔を撮ってください。それにしても、あの神様を勇者さんの保護者にするだなんて、よくその頭から出てきましたね」
「思いついた私の脳みそに嫌悪感を抱きましたよ」
「神様と比べられたことは遺憾ですが、その二択なら迷わずぼくを選んでくださいね」
「その結果が妥協ですよ」
「勇者さんの保護者になることで、これまでできなかったことがたくさん可能になります。まずは授業参観に行きたいですね」
「あまり知識のない私でもわかりますよ。まずで授業参観には行かないって」
「誰かに御挨拶する時に『こちらのかわいい子がぼくの娘です』って言えるんですよね」
「言えません。保護者は親ではありません」
「えっ」
「えっじゃありませんよ。保護者とは未成年者を保護する義務のある人のことでしょう。親とは微妙に違いますよ」
「そんな……。わかりました。では、親になります」
「少しは思考してください」
「なれるもん……。ぼくだって親になれるもん……」
「泣きながら紙を取り出すな。まさか養子縁組のやつじゃないでしょうね。燃やせ」
「そ、そもそも、旅人に親がどうのとか保護者がどうのとか言う人がおかしいんですよ。家族一丸となって世界を旅している方が少ないでしょう」
「同感ですね。ですので、宿に泊まる時だけ大人魔王さんになってください」
「グラマラスなぼくをご所望で?」
「屈強な男になってください。すべての人間を圧で黙らせるくらいの」
「グラマラスで屈強なぼくですか。練習しておきます」
「……。あ、もっと簡単な方法がありますね」
「なんでしょう? 手を伸ばした剣を使う方法でしたらぼくが止めに入りますが」
「違います。店主を脅すのではなく、その辺にいる人間を脅して保護者役にするんです」
「ほぼ一緒です。おやめください」
「一番手っ取り早いのに」
「ぼくがいるではないですか」
「グラマラスで屈強はちょっと嫌だ」
「わ、わかりましたよ。勇者さんに嫌がられない姿を考えておきますから」
「もうひとついいですか」
「なんなりと」
「年齢を『十七』と書くのもどうかと思いますが、保護者を求められて『十七+α』に変えるのやめてもらっていいですか」
「ぼくは永遠の十七歳なのでどうしようもありません」
「店の人が『あっ』って顔をするんですよ。『やべえ奴が来ちゃった』って顔を」
「失礼ですねぇ。どこからどう見てもかわいい十七歳の美少女でしょう?」
「十七歳の保護者はいません」
「だいじょうぶです。そんな時はお金で解決しますから」
「ここまでしゃべって結局なにも解決しませんでしたね」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんは外では自分の年齢を『17歳』にしています。詐欺です。
魔王「世の中、だいたいお金で解決できるんですよ」
勇者「ささっと変化した方がはやいです」
魔王「圧がほしいなら出しましょうか? 魔王オーラ」
勇者「やっていることが剣を取り出した私とさほど変わっていませんよ」