21.会話 祭りの話
本日もこんばんは。
前話と比べて楽しいものにしました。祭りの話です。
わっしょいわっしょい。
「おや、お祭りをしているようですね。賑やかです」
「わあ。人がゴミのようですよ、魔王さん!」
「楽しげに言うセリフじゃありませんよ。めずらしいですね、お祭り好きなんですか?」
「たこ焼きイカ焼き焼きそばりんご飴わたあめ焼きとうもろこしかき氷!」
「たしかに、おいしいものがたくさんですもんね」
「行ったことはありませんが」
「ないのに歴戦の猛者のように進んでいきますね」
「屋台の食べ物ぜんぶ買っていいですか? あ、これも買っておこう」
「どんだけ食べるんですか? あと、それなんです?」
「私が私でなくなるものです。あ、すみません、ソース焼きそば三つと塩焼きそば五つください」
「目が輝いている……。こんな勇者さん始めて見ました」
「すみません、焼きとうもろこし二本ください」
「焼きとうもろこしを武器みたいに持つのやめてもらっていいですか?」
「“焼きとうもろこしは剣より強し“という言葉を知らないんですか?」
「ぼくの辞書にはないですね。って、熱ぅっ⁉」
「ね、強いでしょう?」
「焼きたてを口に突っ込まなくても!」
「しかも、おいしいときた。無敵です」
「おいしいですけど、けど!」
「すみません、わたあめ十本ください」
「もう持てませんよう」
「だいじょうぶです。いい置き場所があるので」
「どこ……って、ぼくの頭の輪っかはわたあめを挿す場所じゃありませんよ」
「まるでわたあめのために存在するような輪のくせに、けちくさいですよ」
「ぼくが悪いみたいにぃ……」
「魔王なんですから、悪くて当たり前でしょう。それにしても、いいですね、このお面」
「勇者さんが魔族みたいだってまったく騒がれませんね」
「ラクでいいです。いっそ常備しましょうか」
「それはいやです。勇者さんのお顔が見えにくいじゃないですか」
「私の顔を見てなにがおもしろいんですか」
「神様も顔が好みで決めたと言っていましたし」
「あれのことはどうでもいいです」
「あ、一気に顔が死んだ」
「おおかた、この目が隠れればいいです」
「きれいな目なのに」
「きらいです、この目」
「……。あ、ぼく、りんご飴食べたいです」
「私の分もお願いします」
「おっけーです。ごめんくださーい、りんご飴を二本いただけますか」
「買ったら輪っかに挿しておいてください」
「べったべたになりますよ」
「取り外せるんでしょう? あとで洗えばいいですよ」
「もう……。食べてばかりじゃなくて、遊びましょうよ。射的とか金魚すくいとか」
「輪投げがいいです。魔王さん、ちょっと」
「なんですか?」
「輪投げやるので貸してください、それ」
「いや、ぼくのこれは輪投げの輪じゃありませんよ。それに、いま外したら大量のわたあめが地に帰ります」
「仕方ありませんね。射的にします」
「そうしてください。……勇者さん?」
「なんですか」
「それ、ゴム弾じゃなくて実弾ですよね?」
「細かいことは気にしなくていいんですよ」
「細かくないですよ。あと、なんでぼくに銃口を向けているんですか」
「魅力的な景品が近くにあったので」
「えっ、魅力的ですか……?」
「ええ、もう眼も奪われるくらいに」
「スコープ越しに言われても」
「心臓を射止めたい気持ちでいっぱいです」
「物理っ。ゆ、勇者さん、花火が始まるみたいですよ。行きましょう!」
「あ、手を引っ張らないでください。どこですか、ここ」
「他に人がいない方が落ち着いて見られるかと思いまして。ほら、お面取ってください」
「取らなくても見えますし、花火に興味ないです」
「そう言わずに。とってもきれいですから。あ、始まりましたよ。たまや~」
「むぅ……」
「焼きそば、焼きとうもろこし、わたあめ、りんご飴がお供ですよ」
「魔王さん、焼きそば食べます? りんご飴だけじゃ足りないでしょう」
「えっ、勇者さんがぼくに食べ物を……? さすがに多かったんですか?」
「いいえ。祭りの熱に浮かされただけです」
「おやおや。でも、だいじょうぶです。ぼくにはりんご飴だけでじゅうぶんなのです。きれいです」
「なんで私の顔を見てにやにやしているんです」
「微笑んでいるんです!」
「…………」
「わっ。なにするんですか。お面で花火が見えませんよう。花火がー!」
「……ふふっ」
「えっ? なんですか、勇者さん」
「いえ。きれいですね、花火」
「そうでしょう、そうでしょう」
「血しぶきみたいで」
「んみぃぁ……」
お読みいただきありがとうございました。
最近、出店が減って悲しいです。
電灯装飾と出店の妖しくも不思議な雰囲気が好きでした。
勇者「今度、魔王さんで花火しましょうか」
魔王「ぼくの聞き間違いですかね? ねえ?」
勇者「派手に散り咲いてください」
魔王「血り咲いてください⁉」




