209.会話 迷路の話
本日もこんばんは。
いつも迷走しているおふたりの会話をどうぞ。
「一概に迷路といってもいろいろあると思いますが、完全に閉じられたものじゃなければ簡単ですよね」
「閉じられた迷路ってなんですか? 出口がないってことでしょうか」
「いえ、立体的な迷路の話です。紙に書いて入口から出口まで辿るようなものではなく」
「勇者さんは今、その迷路をやっていると思うのですが。ぼく作の」
「平面の迷路を見て思ったことを言ったんです。たとえばそう、巨大な壁によって作られた迷路を抜けないと死ぬ……とか」
「デスゲーム映画ではよく観ますね。ぼくはハラハラしちゃって~……」
「いつも思うんですけど、なんで壁を登らないのでしょうか」
「ご存じでしょうか? 普通の人間は壁を登れないんですよ。いいですか、登らないのではなく、登れない、ですよ」
「だってあれ、壁の上に行ってしまえば超簡単ですよ」
「ぼくの言葉が届かなかったみたいです。無念」
「壁の上を歩いて進めばすぐに出口がわかるでしょう。俯瞰的な視点が大切なのです」
「物理的に上から見ていますもんね。ですが、そうしたひらめきは時に違反行為とみなされて排除されてしまいますよ」
「ひらめきを排除したら発明はない」
「名言みたいですね。メモっておきます」
「魔王さんのように飛べるひとは迷路なんてちょちょいのちょいでしょう?」
「そもそも、巨大迷路に行ったことがないのでなんとも……」
「迷い、惑い、疲れ、倒れ、別れ、嘆き、憤り、死に、生きる巨大迷路ですよ」
「キャッチコピーかと思いました」
「人間どもを何人か攫ってきて巨大迷路に放ち、逃げ惑う姿を見て高笑いとかしないんですか?」
「そんな根性の悪いことしませんよう」
「そうですよね……。人間の人生は迷路のよう。短い時間の中で迷いながら生きているちっぽけな人間を見ている魔王さんですから、わざわざ攫ってくる必要もないのでしょう」
「いいこと言っている感じなのに、必ず最後に罠があるんですよね」
「魔王さんの魔王としての部分に配慮した結果ですよ。むせび泣いて感謝してください」
「ほらぁ最後」
「私の優しさが受け取れないっていうんですか。これだからロリババアは」
「まあ、お口の悪い勇者さんもキュートですけどね」
「口が悪いっていうか、ただの悪口な気がします」
「ご自分で言うんですか」
「すみません。私の口からは本心しか出てこないもので」
「実に正直かつ素直でよろしいと思いますよ。そのぶんたちが悪いですが」
「私は迷路のようにまわりくどい言葉は言いませんよ。いつも最短ルートをぶち破っていくスタイルです」
「壁から出てきそうですもんね、勇者さん」
「巨大迷路の最も良い脱出方法に気づいたようですね」
「えっ、今そういう話してましたっけ?」
「最も良い方法、それは……迷路の壁をぶっ壊すことです」
「誰もが考えて不可能だから諦める方法を選出しましたか」
「壁は乗り越えるものじゃない。壊すものだ」
「名言っぽい……名言っぽいのに直前の話のせいで素直に受け取れない……でもメモる」
「一度やってみたかったんですよ、巨大迷路大爆破」
「あっ、おもしろそう」
「これは私は不参加希望ですが、大量の人間で迷路を埋めるのも」
「ほう? その理由は?」
「迷路いっぱいに人間を広げれば、誰かは出口に近いはずです。そこから『出口だぞ』と伝言ゲームすれば、迷わず辿り着けると思いまして」
「理論上は可能だけど実際には不可能に近い事象ですね」
「まだ方法はありますよ」
「想像力が豊かですね! 教えてくださいな」
「誰が出口は一つだと言ったのでしょう」
「はれ? そ、そうですね……? あっ、つまり?」
「出口を作ればいいのです。そう、壁を破壊して」
「やっぱり壊すんですね」
「創造は破壊のあとに起こり得るものです。その逆も然り」
「今日の勇者さんは名言っぽいけどちょっと違う言葉がよく出てきますね。メモります」
「初心に返ることも大切です。迷路で迷った時は、ただめちゃくちゃに進むよりも、一度戻ってくることも必要でしょう。入口から再スタートをすれば、別のことが見えてくる可能性もありますから」
「ど、どうしたんですか勇者さん! さっきから名言が止まりませんね! いつもの迷言はどこに行ってしまったのですか」
「私は名言しかしゃべりませんよ」
「当然のようにおっしゃる……! なんたる自信! かっこいいですよ!」
「スタート地点に戻れば気づくはずです。出口はすぐそばにあったことに。そう、入口が出口だということに」
「……ん?」
「はい、ゴール。私すごいです。こんな迷路でもあっさり出口に辿り着けました。わーいわーい」
「名言を連発する勇者さんはずっと迷っていたんですね……」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さん作の迷路はどれほど難しかったのでしょうか。
勇者「簡単ですけど、迷路に飽きたもので」
魔王「ものすごく迷った形跡がありますけど」
勇者「気のせいです」
魔王「ペンの跡が確固たる証拠ですよ」