208.会話 カラオケの話
本日もこんばんは。
この世界にはカラオケ店だってあります。なければ魔王さんが作ると思います。
「勇者さんの歌を聴きたい……。でも全然歌ってくれない……。そうか、場所がいけないのか‼ ということで、やってきましたカラオケ~。いえ~い」
「すみません、ポテト二つとアイスクリーム三つ、お好み焼き一つお願いします」
「カラオケに来てまず食事メニューを注文するタイプですか。たんとお食べ……」
「歌を歌う場所と言われたので全力で拒否したんですけどね、魔王さんの馬鹿力で強制的に引きずられてやって来てしまいました。この世の終わりです」
「なぜですか。ここは上手いも下手も関係なしに歌うことを楽しむ場です。普段からは知りえない歌にまつわる情報がゲットできる、関係が進展する、二次会へれっつごーする、あわよくばそのまま二人だけでカフェに行くことも――」
「あああああー。うわ、音でかっ」
「マイクの音量はここで調節できます……耳が……頭が……」
「ところで、魔王さんが歌ったら私の頭が崩壊すると思うのですが」
「だいじょーぶです! この日のためにたくさん練習してきましたから!」
「へえ。何人殺したんですか?」
「ころっ……。し、失礼ですね。今回は病院送りに留まっていますよ」
「言葉が足りませんね。病院の霊安室送りじゃないんですか」
「どちらにせよ構いません。魔族の心配などする必要はありませんから」
「今から私が病院に送られると思うのですが」
「ご安心を。ぼくは歌いませんので」
「練習の意味」
「ぼくの目的は勇者さんの歌を聴くことです。ぼくは椅子に座ってタンバリンでもしゃんしゃんしておきますよ」
「やかましいのでやめてください」
「しょも……。では、大人しく聴いているので、お好きな歌をどうぞ!」
「好きな歌もなにも……。カラオケとやらは初めてですし、使い方がわかりませんよ」
「ぼくの好きな歌でもいれてみましょうか。こうして送信っと。ほら、画面に歌詞が出てきたでしょう? 採点機能は使いますか?」
「さっぱりわからん。お任せします」
「採点機能オン~。音程やビブラートなどを総合的に評価し、点数を出してくれるんですよ。ぼくは今までゼロ点しか出たことありませんけど」
「こういうのって、テキトーに歌っても一定の点数が出るもんじゃないんですか」
「たまに採点不能って出てきます」
「まあ……そういう日もあるかもですね」
「それでは、張り切ってどうぞ!」
「もあひゃみやっじゃあえやうあちまじゃっじぃああないびょるやづうしあお」
「何語ですか?」
「ポテトを口の全方位でくわえて歌ってみました」
「びっくりして中断してしまいました……」
「おいしいです。歌うお店なのに食事メニューがファミレスみたいですね。すごい、ステーキもある。ラーメン追加、ハンバーグ追加、パフェ追加、たこ焼き追加っと」
「ご飯を食べに来たのではありませんよう」
「わかっていますよ。一曲歌うごとに一品ですよね」
「なんですかそれ」
「やっぱり変更していいですか。一回注文するごとに一曲で」
「変更しないと十曲歌うことになりますからね。まあ……いいでしょう!」
「わーい。で、何しに来たんでしたっけ」
「そんなことあります? カラオケですよ、カラオケ! 勇者さんの歌を聴きに!」
「五十歩もしくは五十一歩譲って、歌うのはいいんですけど」
「絶妙な歩数ですね。五十歩の次は百歩がよかったです」
「私、歌なんて知りませんよ。歌詞が出ても知らない曲は歌えませんし、読めないし」
「以前、飛び入りコンサートで歌っていたじゃないですか」
「あれは……唯一といっていい知っている歌なんですよ」
「そうなんですか……。では、こうしましょう。カラオケさんに歌ってもらい、その歌を覚える。そして歌う! いかがですか?」
「自動で歌ってくれる機能があるんですね。便利だなぁ」
「ぼくはいつも、ガイドボーカル機能を使って練習していますよ。一緒に歌っている気分になって楽しいですし!」
「機械が相手なら殺ってしまう可能性もありませんもんね」
「どのように聴こえているか確認してもらうためのサポートは連れていますよ」
「哀れな……」
「あ、この曲はぼくのお気に入りです~。いつも三回は歌っていますよ」
「へえ……。私も割と好きかも――あの、画面に出てくるわざとらしい演技の人間どもはなんですか。うざったいんですけど」
「そう言わずに~。曲のイメージに合わせた映像なんですよ、きっと」
「違う映像に同じ男が出ているんですけど、相手の女は違いますね。浮気でしょうか」
「この曲、ぴゅあぴゅあの恋愛ソングなのに……」
「お腹もいっぱいだし室内が薄暗いので眠くなってきました。魔王さん、バラード曲でも流してください」
「お昼寝ですか? せっかくカラオケに来たのに……。仕方ありませんねぇ、ぼくがカラオケの音響ぱぅわぁーを借りてとびっきりの子守唄を――」
「わぁー、すごく歌いたい気分になってきました。マイクを貸してください早くマイクを早くマイクをよこせ歌うな魔王さんやめろタンマやめてくださいほんと」
お読みいただきありがとうございました。
結局、何曲か歌うことになった勇者さん。満足げな魔王さん。
勇者「ゼロ点ってほんとうに出るんですか? 百点しか出ませんけど」
魔王「ひゃ、百点って存在するんですね……初めて見ました……」
勇者「判定ゆるゆるなんですかね」
魔王「いやぁ……おそるべし勇者さん……」