207.会話 白雪姫の話
本日もこんばんは。
いうまでもなく白雪姫さんはご登場しません。
「白雪姫が食べ、死んでしまった原因になったもの、それは毒りんごです」
「おやつにりんごを食べている時にする話なのでしょうか」
「毒りんごによって死亡した白雪姫ですが、王子様の口づけにより生き返るのですよ」
「ええ、なにゆえ……。あ、わかりました」
「王道中の王道展開です。さすがの勇者さんもわかりますよね。答えをどうぞ!」
「白雪姫とかいう人は、死んでいなかったんです」
「おお?」
「なんらかの毒で仮死状態になっていただけなんですよ。そして、毒りんごを作ったのは王子様で、口づけした時に解毒薬を白雪姫さんに与えたんです。自分で用意した毒なら、解毒薬がどれかもわかっているはずですから」
「……んん? ん? あれ、ぼくの知っている白雪姫じゃない……」
「傍から見たら、まるで奇跡のようなそれも、用意周到に計画されたものだったんです」
「お、王子様……?」
「眠りから覚めた白雪姫さんは、まず間違いなく王子様に感謝するでしょう。そして、王子様という親と血と権力によって得た地位を利用して白雪姫さんに取り入るのです」
「ほんとうは怖い白雪姫ですか?」
「もしくは、白雪姫さんと王子様は共謀して計画を練ったんです」
「あれ、また違う展開が」
「きっと、姫と王子という立場上、親の決めた結婚相手がいたでしょう。しかし、白雪姫さんと王子様は恋に落ちてしまった。どうにか親に自分たちの恋を認めさせたい。そう思った二人はこう考えたんです。『親から結婚を求められるくらい恩を売ればいい』と」
「肝が据わっているというか、大胆というか、ずる賢いというか」
「まず、王子様が毒りんごを白雪姫さんに渡します。白雪姫さんは人がいる場所で食べ、倒れる。王子様は時間を正確に計り、毒がいい感じに回ったところで登場。公衆の面前、もしくは発言力の強い人の前で『奇跡の口づけ』を披露するのです。奇跡を目の当たりにした人々を後ろ盾に、王子様は『白雪姫さんの命を救った大恩人』というカードを手に入れる。加えて、白雪姫さんが王子様に惹かれている素振りを見せれば完璧です」
「なんか、あの、大変なんですね、お姫様も王子様も」
「終わり良ければすべて良しですよ」
「う、うーん……。白雪姫さんも、毒りんごだとわかっていて食べるなんて勇気がありますねぇ」
「それはあれです、愛とかですよ、たぶん」
「その辺は興味なさそうですね、勇者さん」
「そもそも殺す気がないんですから、死ぬような毒を使うわけないでしょうし」
「あ、たしかに。それなら安心ですね」
「しっかし、白雪姫さんはお姫様なのにワイルドなんですねぇ」
「どの辺がですか?」
「たとえ好きな人からだとしても、手渡しされた裸のりんごを洗わずにかぶりつくなんて、野生児みたいですよ」
「記載がないだけで、きっと袋なり布なりに包まれていたんですよ。たぶん」
「この物語はりんごは皮ごと食べる派の白雪姫さんだからこそ成立したかもしれません」
「というと?」
「白雪姫さんを殺害しようとした何者かが毒りんごを用意しますよね。その毒はどこにあると思いますか?」
「りんごをかじって死んでしまうので、中じゃないでしょうか」
「りんごの中に毒を入れるって、ちょっと現実的じゃないですよね。しかも、その方法にしたらりんごをすべて食べないといけません。幼い少女がりんごを丸々ひとつ、食べるでしょうか?」
「勇者さんなら余裕です!」
「うるせえんですよ。つまりですね、毒は中ではなく、皮に塗られていたのではないかということです」
「ほうほう」
「まず、少々ワイルドな白雪姫さんがりんごに皮ごとかぶりつくことを知っている」
「うんうん」
「次に、手渡す時に自分に毒がつかないように手袋をしている。布でも構いません」
「うんうん」
「最後に、白雪姫さんがりんごを手渡されても怪しいと思わない人物」
「うんうん」
「すべて当てはまるやつが犯人です」
「推理ショーしていたんですか? ぼくはてっきり白雪姫考察かと」
「誰が犯人でもいいですよ。白雪姫さんは生きているようなので」
「あっさりしていますねぇ。毒はたしか、魔法でどうたらって……まあいっかです」
「以前、物語には教訓があるとおっしゃっていましたよね」
「鶴の恩返しの話ですね。はい、言いましたよ」
「白雪姫さんの物語の教訓はわかりやすいですね。他人からもらったものを疑いなく食べないこと、どこに毒があるか注意すること、りんごは皮を剥いてから食べること、丸々ひとつかぶりつかないこと」
「ひとつ目には共感します」
「しゃべったらお腹すきました。りんごいただきますね。むしゃああ」
「言ったそばから皮ごとかぶりついた……。こうして物語は繰り返されるのですね……」
お読みいただきありがとうございました。
昔話や童話はいろんな解釈ができて楽しいですね。
勇者「皮ごとかぶりつく派の白雪姫さんとはお友達になれそうです」
魔王「お友達判定が謎すぎますね」
勇者「仮死作戦もおもしろいです」
魔王「それはきみの中だけの白雪姫さんですよ」