206.会話 七つの大罪の話
本日もこんばんは。
勇者さんは怠惰と暴食を担当できる気がします。
「勇者さんは『七つの大罪』という話をご存じですか? 罪が重い順に嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食であり、人間に罪を犯させる危険性がある欲や感情のこととされているものなんですが」
「知りません。その話が、私が布団に寝っ転がってお菓子を食べていることと何か関係でもあるんですか。私が大罪を犯しているとでも?」
「いえ、特に意味はないんです。ただ、勇者さんのお姿を見て、これが七つの大罪か……と思った次第です」
「私の名誉のために言っておきますけど、七つすべてコンプリートはしていませんよ」
「色欲とは縁がなさそうですもんね」
「私は自分を律して生きる厳かな人間です」
「お菓子をつまみながら言わないでください。それとも、ぼくの幻覚ですかね?」
「そうですね」
「テキトーすぎる発言」
「甘いものを食べていたらしょっぱいものが食べたくなりました。そぉい」
「暴食の罪ですねぇ」
「罪とは一体なんなのでしょうか」
「哲学の話ですか?」
「私はありとあらゆる食べ物に感謝し、おいしく食べられるところまでしか求めません。お腹がいっぱいになったら無理に食べることもしません。食事量は人それぞれです。他人の価値観で『食べ過ぎ』といっても、当の本人は普通かもしれません。さて、これは暴食にあたるのでしょうか」
「じ、辞書をひいてきます……」
「これは私の意見ですが、食欲旺盛と暴食は違うと思いますよ」
「ぼくもそう思います。おいしくいっぱい食べることは罪ではないでしょう。とはいえ、いくつチョコレートを食べるおつもりですか。食べ過ぎですよ」
「当の本人――つまり私にとっては普通です」
「いいえ、食べ過ぎです。勇者さんの健康のためにお菓子はここまでです。没収」
「そんな……。お菓子を奪われて、すべてのやる気を失いました。悲嘆です」
「怠惰の間違いではないでしょうか」
「体を休めて強敵との戦いに備えているのです」
「強敵?」
「たぶんもしかしたらきっとおそらくそのうち出てくる強敵です」
「出てこない気配がしますが、強敵なら技を磨くことも大切ですよ」
「私なら倒せます。よゆー。たぶん。その辺の人間より強いので」
「傲慢……と言いたいところですが、強いのは確かですね」
「なにもせずに一億枚の金貨が降ってこないかなぁ」
「そんな夢みたいなことはありませんよ」
「あわよくば、金貨の雨に打ち付けられて魔王さんがお亡くなりにならないかなぁ」
「どっちか片方でもじゅうぶんですよ。そこまで言ったら強欲です」
「ついでに私も死ぬ」
「勇者さんにとっては欲……ですね」
「死ぬ前に、神様を五百発くらい殴りたいですよね。あのくそったれめ」
「憤怒ですね。勇者さんは感情を荒げるのすらめんどくさいので分かりづらいですが、怒る時は怒りますよね」
「魔王さんのことはいつでも首を狩り取りたいと思っていますよ」
「怒りで……?」
「さあ」
「さあって。あとは嫉妬と色欲ですが、当てはまることはあるでしょうか。勇者さんが嫉妬しているのなんて、ぼくは見たことがないような……」
「人間なので、嫉妬くらいしますよ。たぶん。めいびー」
「そうなんですか? どんな時に? 誰に? 何に?」
「近寄るな。そういう魔王さんはどうなんです。七つの大罪、あるんですか」
「そりゃあ、もちろん。魔王ですからね!」
「言うだけ言ってません? 自分は悪いぞアピール」
「反抗期じゃないんですから」
「世界最強で悪の根源で魔なるものたちのトップで不老不死で金持ち。嫉妬する相手なんかいないと思いますけど」
「……それが、そうでもないんですよねぇ」
「傲慢だって、世界で一番強いんですから見下して当然ですよね」
「ぼくが見下すのは魔なるものたちだけです。人間にはとびきりの愛を」
「怠惰は……朝起きないこと? でも、一日寝ているわけでもありませんし」
「勇者さんほどではありません!」
「やかましいわ。強欲も、魔王なら当然ですし、そもそもなんでも持っていますよね」
「失われたものでもレプリカなら作れると思います」
「暴食もイメージありませんね」
「ぼくはごく普通の食事量です」
「最後は色欲ですか。うーん、これが一番あてはまる」
「ええっ⁉ ぼく、こんなに清楚な見た目しているのに⁉」
「見た目だけですよね。隙あらば抱きついてこようとしているの、気づいていますよ」
「やだぁ……。ただの愛情表現ですよう……勇者さんのお顔がこわぁい……」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんが嫉妬している相手は一体誰なのでしょうか。
勇者「魔王さんは魔王のくせに勇者っぽいので勇者罪です」
魔王「新しい罪が」
勇者「八つの大罪にしましょう」
魔王「八つ目、ぼくしか当てはまっていませんけど」