204.会話 幼馴染の話
本日もこんばんは。
ラブコメには定番の幼馴染ですが、この作品はラブコメじゃないので幼馴染がいません。悲しいです。
「勇者さんの幼馴染枠を狙っているんですけど、どう思いますか?」
「下心があることしかわかりませんでした。幼馴染枠ってなんですか」
「幼い頃に親しくしていた友人とは、成長してからなにかと進展があるものですよ。なければむりやり進展させるまでですが」
「目が笑っていないだけでこんなにこわいものなんですね。せめて笑えや」
「おっと、失礼しました。にっこり。それで、どうでしょうか? ぼくの幼馴染になってみる気はありませんか?」
「その気があればなれるものなんですかね。幼馴染って、幼少期とかの時間を長く過ごした者同士のことじゃないんですか」
「ぼくから見れば、勇者さんの年齢も幼少みたいなもんですよ」
「ケンカ売ってます?」
「ち、違いますよう。今からでも間に合うと言っているんです」
「間に合いません。手遅れです」
「手を合わせて祈らないでください。ぼくは元気満々です」
「安らかにお亡くなりになることを祈っているんです」
「これから仲を深めて幼馴染ごっこをキャッキャッしようと思っているのに……」
「もっと純粋無垢なものかと思っていましたよ」
「純粋な想いだからこそ、利己的に変わっていくのですよ!」
「へえ。よくわかりません。幼馴染になるといいことでもあるんですか?」
「幼馴染イベントが発生します」
「なんだ、ケーキの割引券とかじゃないのか」
「幼馴染の辞書的な意味からご説明した方がよかったでしょうか」
「もっと実用的なメリットを求めているんですよ、私は。食べ放題二時間無料券とか」
「ぜんぶ食べ物ですね」
「ご飯大盛りチケットとか」
「……お腹すいたんですか」
「幼馴染ということは、住んでいる場所も知っているんですよね。お泊りなんかしちゃったりして」
「そうですね! そうです!」
「『いつもお弁当ばっかりのあんたに夕飯作りに来てあげたわよ。感謝しなさいよね!』」
「どこで聞いたんですか、そのセリフ」
「昨日、観ていたホラー映画でヒロインらしき人間の女が言っていました。いつもお弁当ばかりだと手作りの夕飯をゲットすることができると学びました」
「その学びは違うと思います」
「ていうか、お弁当のなにが悪いんですかね。おかずにお米、その他の野菜も入ってお弁当ひとつで完結するんですよ。あの女、手作りの方がいいみたいなしゃべり方でしたけど、お弁当だって人間が作っているんでしょう。同じじゃないですか」
「その女性は、お弁当を理由に自分の手料理を振舞いたかったのですよ。お弁当をけなしているわけではありません、きっと」
「男女は幼馴染と言っていました。ケンカをしながらご飯を食べて、ケンカをしながらテレビを観ていましたが、幼馴染って仲悪いんですか」
「ぼくに任せてください!」
「なにを」
「いいですか、幼馴染というものは大体が恋愛感情、もしくはそれに近しい感情を抱いていることが多いです。お互い進展したいけれど、築いてきた絶妙な関係性が壊れるのはいやだ……。維持と進展の間で揺れ動く感情が、そういったツンを引き出すのです!」
「めんどくさいですね」
「相手への気持ちをさらけ出すまでが長くもどかしく愛おしい、それが幼馴染の良さとも言えるでしょう!」
「ええ、めんどくさいなぁ」
「勇者さんの本音はすぐ出てきますよね。いいと思います」
「手料理を食べてほしいならそう言えばいいし、関係を進展させたいならそう言えばいいと思います。まわりくどいやり方をしていると、そのうち別の誰かに横取りされますよ」
「ぼくに任せてください!」
「だからなにを」
「すでに良き感情を抱きつつも言えない幼馴染たちの前に現れる新たなライバル! それなりの時間をともにしてきた幼馴染アドバンテージをものともしないライバルの行動や発言により、事態は急展開に――というのが定番です」
「つまり、魔王さんはライバルが欲しいんですね」
「ほあ?」
「私とふたりだけでは刺激が足りないと。もっと衝突して成長できる相手が必要なんですね。ふたりの中に乱入する三人目ですか。いいでしょう、探しておきますよ」
「えっ、いや、そうじゃなくて、あの」
「幼馴染と新キャラですか。この場合、私が新キャラ枠でもいいかもしれませんね。魔王さんの幼馴染の方がたくさんいそうですし」
「ちょっと、そういう意味ではなくて、ぼくはあの、その!」
「どこかにアドバンテージをぶっ壊して乱入できる神経しているひと、いないかなぁ」
「……いるにはいると思いますよ。実際、乱入してきましたし。乱入というか、降ってきましたけど」
「そういえば、聞いたことがあるんですけど」
「なにをですか?」
「幼馴染って負けるらしいですよ」
お読みいただきありがとうございました。
幼馴染がいないならつくればいいじゃないと誰かが言っています。
勇者「幼馴染は力が弱いんでしょうね」
魔王「そういう意味ではないと思いますけど……」
勇者「グーパンで殴り合って負けるんでしょう? 映画で観ました」
魔王「観る映画が間違っていると思います」