201.会話 魔王城の話
本日もこんばんは。
魔王といえば魔王城。全然出てきませんが、実は魔王城はちゃんと存在します。
「ちょっと気になったんですけど、こうして一緒に旅をしている間、魔王城はもぬけの殻ですか? 下僕とかに警備させているんです?」
「うーん……、というか、魔王城に入るメリットがないので警備させる意味が……」
「旅に出るまでは魔王さんの自宅だったんでしょう。自室とか、見られちゃまずいものとか、ないんですか」
「別に……」
「ご自分の城のわりには興味がなさそうですね」
「勇者さんとの旅の方が比べ物にならないくらい大事なので」
「曇りなきまなこ」
「誰かに警備させるより、自分でやった方がいいので考えたことありませんね」
「世界最強ですもんね」
「命令してないのに勝手に魔王城で働いているやつとかもいますけど」
「仕事熱心じゃないですか。勝手に、が余計ですけど」
「たまに帰って確認もしていますから、心配ありませんよ」
「へえ。…………え、いつ?」
「勇者さんがすやすや眠っている時とか、ばびゅーんっとひとっ飛びして」
「……たまに、やけに起きない時があると思ったらそういうことですか」
「で、ですが、すぐに帰ってきていますよ? 魔王城をさらーっと見てすぐ!」
「なんの確認をしているんですか」
「侵入者がいないかどうかとか、掃除とか、いつか勇者さんが住む用のお部屋の設備をととのえ――ととっとっとうーい」
「誤魔化すのが下手ですね」
「魔王城を宿泊施設にして再利用する案もあります」
「永眠させられると思われますよ」
「めんどうなのでぶっ壊そうかとも思っています」
「飛躍」
「あんな悪趣味な城、ぼくの好みじゃありませんし」
「魔王さんが作ったんじゃないんですね」
「神様からもらいました」
「じゃあ、ぶっ壊そう」
「ぼくはもっと、こじんまりとしたかわいらしいお家がいいんです。二階建てくらいで」
「魔王城って何階建てなんですか」
「十二階建てです」
「大きいですね。それだけ大きいと、移動するだけでも大変そうです」
「そうなんですよ。だからぼく、下二階くらいしか使っていませんでした」
「玉座があったの、一階でしたよね」
「せっかく来ていただいたのに階段を上らせるなんて失礼じゃないですか」
「うーん、うん、そうですね、はい」
「使いもしない建物なんて資源の無駄でしかありません。環境に優しくないです」
「魔王城は悪のシンボルでもありますからね。そう簡単に手放せないんじゃないですか」
「悪のシンボルだなんておそろしい! もっと友好的な場所にしたいです。以前、『人間のみなさん大歓迎!』と書いた垂れ幕をお城に垂らしたんですけど」
「裏があるのではないかと思っちゃいます」
「誰も来ませんでした。ごちそうも用意したのに……ぐすん」
「ごちそう? 私なら行きました」
「さすが勇者さん……。危険を顧みず食べ物に釣られるそんなところもすてきです……」
「なんだろうな、褒められている気がしない」
「勇者さんが魔王城に来たのは一度キリでしたよね」
「魔王さんと出会った時だけです」
「どうですか? 一度、帰省するのは」
「いつの間に魔王城が私の実家になっているんだ」
「ひとりで魔王城にやってきて、ふたりになって魔王城から旅に出たんですよ。故郷みたいなもんじゃないですか」
「だから飛躍」
「勇者さんのお部屋もばっちりです」
「言っていることは完全に犯罪なんですけどね」
「眺めのよい七階をすべて勇者さん用にリフォームしました。冷暖房設備、初期家具設置済み、お望みならば執事メイドもお付けします。どこで眠っても風邪を引かないように床暖房もありますよ」
「私は一国の姫か」
「ぼくにとってはお姫様みたいなものですが?」
「当然のように言わないでください。こわい」
「ちょっと休憩するだけでもいいので! 一泊だけでも!」
「魔王城で休憩する勇者っておかしな画ですよね。傍から見たら捕まったと思われます」
「窓は大きく外開きしますよ?」
「世の中、そんなに簡単じゃないんですよ」
「『勇者休憩中』って垂れ幕用意しますから」
「そういう問題じゃなくてですね」
「じゃあ何が問題なんですかぁ!」
「勇者と魔王なのが問題なんですよ」
お読みいただきありがとうございました。
あまりの設備の良さに若干ゆらぐ勇者さん。
勇者「なんで七階なんですか?」
魔王「あんまり高層なのもどうかと思いまして。あと、七階は一階との直通エレベーターがあるんです」
勇者「直通エレベーター」
魔王「よければぼくの部屋とも通しま――」
勇者「結構です」
魔王「あうぅ……」