2.会話 名前の話
本日もこんばんは。
勇者さんと魔王さんの名前の話です。
会話パートは完全会話のみになります。1500字~2000字程度のSSです。
1~3分ほどで読めるので、スキマ時間などにぜひどうぞ。
「勇者さんって名前はなんていうんですか?」
「名前ですか。なぜです?」
「せっかくふたりで旅をしていますし、勇者さん、魔王さんだと面白みに欠けるように思いまして」
「名称に面白みを求めるのも珍しいですね」
「あだ名とか夢なんですよ」
「魔王のくせに小さな夢ですね。ちなみに魔王さんのお名前は?」
「ぼくはありませんね。魔王は魔王です」
「…………」
「そんな目で見られても、本当にないんですよ。ぼくは生まれた時から魔王です」
「私も似たようなものですよ。名前は付けられていません」
「ですが、人間は基本的に名を持つものだと聞きましたが」
「一般的には、ですね。私はひねくれた人生だったので」
「それなら、名前を考えてみませんか?」
「自分たちで自分たちの名付け親になるということですか」
「はい。楽しそうでしょう?」
「ひまつぶしにはなりそうですね。魔王さん、お手本を見せてください」
「そうですねぇ。ユウとマオ、はどうでしょう?」
「一応聞きますが、まさか勇者と魔王から取ってませんよね?」
「取ってますけど……」
「安直オブ安直」
「わかりやすくていいじゃないですか」
「もはや元のままでいいレベルですよ」
「じゃあ勇者さんもお手本を見せてくださいよ」
「ニンとマゾ」
「表現の自由を守るため、一応何から取ったか訊いてもいいですか」
「人間と魔族です」
「あっ、そのまんまだった」
「カテゴリー別ですよ」
「名前に人種入れなくても。それに、ぼくの方はもはや別の意味ですよ」
「私、純粋無垢なのでちょっと何言ってるかわからないですね」
「その文言、許可取ったんですか」
「取ってないです。なにせ勇者なのもので」
「ちょっと何言ってるかわからないですね」
「これで共犯です」
「罪の意識がある言い方ですよ、それ」
「罪のない人間なんていませんよ」
「突然の深い発言のところ申し訳ないのですが、ぼくは人間じゃないので」
「マゾですもんね」
「そこで略すのやめてもらっていいですか」
「これは失礼しました。ゾクでしたね」
「魔王だからゾクゾクするってことですか?」
「そこまで考えて喋ってないです」
「その脳は飾りですか」
「なかなかいい案が出ませんね。魔王さん、他に候補はありますか」
「好きなものを名前にするのはどうでしょう? お花の名前とか可愛いと思いますよ」
「好きなもの……。花……。……トリカブト?」
「どうしてそうなるんです」
「すごく綺麗な花ですよ。加えて便利ですし」
「詳しく訊くのが憚られますね」
「魔王さんはどうなんです?」
「ハエトリグサとかサラセニアを育てていました」
「へえ。どういう花なんですか」
「食虫植物です」
「……へえ」
「もうちょっと短い名前がいいですね」
「名前の一部を取るのはどうでしょう」
「トリカブトなら、リカでしょうか。ハエトリグサならエトリ?」
「いえ、カブとハエ」
「両方とも別の意味ですね。ぼくなんてめちゃくちゃ弱そうですよ」
「我は魔王、名はハエである! うん、雑魚っぽいですね」
「ぐうの音も出ません」
「えいっ」
「ぐうっ! な、なんですか突然」
「いえ、名前の案ですよ」
「意味がわからないのですが……」
「だから、ハエトリグサです」
「もう少し詳しく」
「グサ」
お読みいただきありがとうございました。
トリカブトの花はきれいなのでご自宅にぜひどうぞ。
勇者「名前はなくても困りませんよ。なにせ呼ぶ人がいませんからね」
魔王「ぼくが何回でも何十回でも何百回でも何千回でも何――」
勇者「ぜっっったいやかましいじゃないですか。なくてよし」
魔王「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」