199.会話 雪だるまの話
本日もこんばんは。
雪玉って作るの難しいですね。
「魔王さん、雪だるまを作ろうと思うんです」
「珍しいですね、勇者さんがご自分から雪の中に出ようなどと! もちろん……と、喜んだのはいいですが、これはどういう状況でしょうか?」
「ちゃんと言いましたよ。『魔王さん雪だるまを作ろうと思う』って」
「ああ~……。ぼくと雪だるまじゃなくて、ぼくの雪だるまなんですねぇ。身が凍えるように冷たいですが、勇者さんのお役に立ててうれしいです」
「一度、雪玉を作ろうと思ったんですが、意外と難しくて。魔王さんに雪を加える方が労力も少なくて済むだろうと考えた次第です」
「怠惰な勇者さんが思いついた時短技ですね。あっ、すみません顔まで埋めなむぐあぁ」
「雪だるまには顔が欲しいですよね。何を使えばいいんだろう」
「ぼくの顔じゃだめなんでしょうか」
「黒いボタンとかかな」
「聞いてます?」
「鼻にはにんじんって聞きました。じゃーん。そぉい」
「へむあぁ」
「腕、もっと伸ばせますか? 雪だるま用に」
「勇者さんが仕舞いこまなければ出せたんですけどね。待ってくださいね。ふぬぬぬ」
「おお、腕の誕生です」
「た、たぶん、ちょっと違う、雪だるまのような」
「完成です。おー、かわいいかわいい」
「心のこもっていない声」
「さ、帰りましょうか」
「ぼく! ぼく置いてけぼり!」
「雪だるまの由来について考えていたんですけど」
「この状態で聞くんですね。構いませんけど……」
「思うに、雪だるまは最初、拷問用に考案されたのではないでしょうか」
「雪だるまの名誉のために詳細をお聞きしても?」
「人体を骨組みとし、雪を肉付けしていくんですよ。冷たい雪に覆われ、動くこともできず、極寒の中に放置される……。どうですか?」
「そうですねぇ。雪が降る気温は低くて人間には厳しい――って、今のぼくですね」
「どんどん雪が降り積もり、罪人は雪だるまとなって冬の中に消えていくのです」
「あ、太陽の光が。あったかいです」
「春の訪れを夢見ながら、凍える世界で細い命が凍っていくんですよ」
「ちょっと雪が溶けました。動いていいですか?」
「待ってください。その前に魔王だるまを転がしたいです」
「それは構わないんですが、ぼくを転がすってどういう――ああぁぁぁ~」
「できることなら、魔王さんを私のてのひらで転がしたいです」
「似たようなことはしていると思いますよ。いまこの時とか」
「少しずつ雪玉が大きくなっていきます。この世のすべてを巻き込んでいる気分です」
「勇者としては世界を巻き込むべきですけどね。あ、救う方の意味で」
「腕が疲れたので休憩します」
「ぼく、横向きのまま放置されるんですか? あらぁ、空が青――くない。曇りです」
「少し薄暗いですから、巨大な雪だるまを作って木陰に置いておいたら、人間どもはビビり散らかすのではないでしょうか」
「言い方」
「そうして生まれた都市伝説が『幸雄伝説~粉雪の舞う頃に~』です」
「また知らん伝説が……」
「詳しく捏造しようと思いましたが、寒くて頭が働きません」
「雪遊びはそろそろお開きにして帰りましょうか。体が冷えます。ぼくはもう体の感覚がありませんよ」
「うわぁ、魔王だるまが立ち上がった」
「足も誕生させました。動ける雪だるまですよ」
「不気味」
「そんな……。雪の中をのっしのっし動く雪だるまですよ? こどもたちから大人気になること間違いなしです」
「一斉に逃げ出すでしょうね。これがのちに語り継がれる『こどもを攫う雪だるま伝説』の始まりになるのです」
「ぼくはすでに語られる存在なのですが」
「隣を歩かないでいただいても? 知り合いだと思われたくないです」
「こんなにかわいいのに? 生けるマスコットキャラクターですよ」
「雪が溶けて恐怖感が増していることにお気づきでしょうか。あ、にんじんが落ちた」
「雪は溶けると水になります。おかげでほら、長い髪がびっしょびしょ」
「こわいこわい。後ろ髪が顔の前に垂れ下がって大変なことになっていますよ」
「ま、前が見えないです~……。おっとっと」
「ちょっとぶつかる……わあぁ。雪だるまの魔物が襲ってくるような気分です」
「あ、向こうにこどもたちが。楽しませに行きましょう」
「やめろやめろあの子たちにトラウマを植え付けるきですかちょっとあああぁぁ」
「やあ、こんにちはかわいいこどもたち~。ぼくは雪だる――あれ? 悲鳴をあげて逃げて行ってしまいました。なにかあったのでしょうか?」
「あぁ……、また伝説を生み出してしまった……」
お読みいただきありがとうございました。
新たな伝説が生まれた瞬間でした。
魔王「ぼくの何がいけなかったのでしょう……」
勇者「胸に手を当てて考えてみてください」
魔王「雪で冷たい……」
勇者「人間の心がわからない怪物みたいでおもしろいです」