197.会話 アラームの話
本日もこんばんは。
おすすめのアラーム音はフライパン連打です。
「……んい? 勇者さん? あれぇ……、もう朝ですか?」
「朝っちゃ朝ですけど、夜明け前です」
「太陽がおはようを告げるまでは夜だと思っています。アラームだってまだ……」
「アラームが鳴るまで三時間ありますよ」
「なんてこったいですぅ……。いつも思っていますが、勇者さんってずいぶん朝早く目を覚ましますよね」
「すみません、起こしちゃいましたか」
「いえいえ、お気になさらず。このあと二度寝しますから。今は四時ですか。すごいですねぇ、ぼくは起きようと思っても起きられない時間ですよ」
「朝に弱いですもんね。無理に起きなくていいですよ。昔の名残で目を覚ましちゃうだけなので。私も二度寝しますから」
「……よほどのことがない限り、毎日お早いですよね。もしかして、勇者さんの体の中にはアラームが設定されているのでしょうか?」
「腹時計はありますけど」
「それには深い共感を示します」
「朝が起きられない魔王さんは、体内時計を入れたらいいと思いますよ」
「たしか、朝日を浴びるとリセットされると聞いたことがあります。太陽の光は浴びているんですけどねぇ……」
「いえ、これです」
「まじの時計じゃないですか」
「朝の七時にアラームをセットしておきました。これで確実に起きられるはずです」
「ひとつ質問よろしいですか?」
「仕方ありませんね。どうぞ」
「どうやって止めるんですか?」
「どうやって入れるのか訊かれるかと思ったんですけどね」
「飲み込んだり?」
「口に入りますかね」
「お腹を裂いたり?」
「セルフモザイクお願いします」
「変化魔法で一度溶ければ簡単ですよ」
「当然のように言われると反応に困りますね」
「いやぁ、それにしても勇者さんのアイデアには驚きました。今まで考えもしなかったですが、なんと画期的な方法でしょうか!」
「ボケたつもりだったんですけどね」
「あ、ぼくにも天啓がっ!」
「神様からのお告げなど聞きたくないでしょうに。して、それは?」
「アラームの音を勇者さんのお声にするのです」
「正気?」
「ぼくはいつでも正気ですが」
「正気と狂気は紙一重」
「勇者さんに毎朝『朝七時、朝七時、起きてください、魔王さん』と呼びかけられたら、それは一体どんな幸せでしょうか……!」
「ツッコみたくないですが、さすがに言ってもいいですか」
「なんですか?」
「録音音声でなくとも、毎日聞いていますよね」
「はえ?」
「毎日毎日、私が朝起こしているのをお忘れか?」
「毎日とってもはっぴーです」
「すてきな笑顔ありがとうございます。このやろう、起きろ」
「お、起きなければ勇者さんがぼくを呼ぶ声を何回も聞けるかなぁと」
「ただ起きられないだけでしょうに。アラームが鳴っても自動消音時間まで放置するタイプでしょう?」
「あれいやなんですよねぇ。眠りが妨げられる感じがして不快です」
「起こすための音なんですから、妨げて当然です」
「勇者さんのお声は心地よいですよ。おかげで眠りが誘発されて……ふわぁ……」
「……そろそろ夜明けですね。朝日が顔を出す時間です。魔王さん、このまま起きて太陽光に焼かれてきたらいいんじゃないですか? 強制的に体内時計をリセットするんです」
「ま、待ってください眠いですせっかく勇者さんのお声でふわふわ眠たくなってきたところなのにやめてくださいひっへはほひっはらないへくらはい~」
「朝日が見えましたよ。朝です朝です朝です」
「勇者さんが朝日アラームになっている……」
「朝ごはんの時間アラームも鳴っています」
「絵に描いたようなお腹の音ですね」
「魔王さんを成敗する時間を告げるアラームも聞こえます」
「え、なんですかそれ」
「聞こえませんか? 毎日必ず聞こえるんですけど」
「えっ、えっ?」
「神様が言ってくるんですよね。仕事してねーって」
「えっ、それまじで言ってます? うそですよね? 冗談ですよね?」
「さあ、どっちだと思います?」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは夜明け前に目を覚ます癖があるそうです。
魔王「勇者さんって、二度寝しても起きるのは早いですよね」
勇者「魔王さんが起きなさすぎなんですよ」
魔王「だからって剣先を向けないでくださいよう」
勇者「全然慌てる気配がないくせによく言いますよ」