193.会話 スローライフの話
本日もこんばんは。
スローライフの物語も書きたいなと思ったら、すでにスローライフでした。
「最近、スローライフが流行っているそうですよ。ということで、私たちもいざ」
「勇者さんはすでにスローライフじゃないですか?」
「日々魔物を粉砕し、魔族を蹴っ飛ばし、人間から逃げる私のどこがスローライフです」
「……今とか?」
「これはあれです。体を休めていざという時のために力を養い蓄え研ぎ澄ますあれです」
「どれです? ただ木陰でお昼寝するべく寝っ転がっているように見えますが」
「聖なる者には正しい姿が見えているはずです」
「ぼくは魔王だから見えないと。聖なる側の勇者さんにはどう見ているのですか?」
「木陰で昼寝するべく寝っ転がっています」
「同じ世界が見えているようで安心しました。のんびりまったり生活することをスローライフというのでしたら、まさしく勇者さんのお姿はスローライフそのものですよ」
「勇者である時点でスローなライフは失われたと思います」
「それはまあ……。ですが、ぼくとの旅はのんびりまったりですよね?」
「魔王さんが私を働かせるということは、それすなわち勇者と魔王の大決戦ですからね。私が戦争しようぜって言ったって」
「断固拒否します」
「って魔王さんが言うので」
「戦争するより野を耕し稲を植え野菜を収穫しお釜でご飯を食べましょうよ」
「平和的ですが、割と忙しそうですね」
「田舎の生活は決してヒマではありませんよ? 自給自足なんてした日には、やることしかありません」
「見てきたように言いますね。あ、もしかして」
「暇すぎた時代にちょっとばかし」
「でも、魔法があればなんとかなりそうですよね」
「たしかにそうですが、基本的に人間は魔法を使えませんからね」
「なんでもかんでも魔法で完結したらラクなんですけどねぇ。私の魔法……あ」
「どうしました?」
「茨を伸ばして魔物をぐるぐるするやつあるじゃないですか」
「かっこいいので好きです!」
「それをこう……うまく操作して、えいっ」
「手が届かない場所にある物を引き寄せるとは……。操作、お上手ですねぇ」
「動かなくていいので練習しました」
「そういうところでは努力するんですねぇ」
「スローライフを成り立たせるのは陰の努力ですよ」
「いいこと言っているんだけどなぁ」
「メモっていいですよ」
「あ、それはばっちりです」
「……まじでメモってる。そういう魔王さんは、理想のスローライフとかあるんですか」
「畑を耕し、新鮮な野菜を収穫して帰ってきたら、勇者さんが夕餉の支度をしながら『おかえりなさい』と言ってくれるスローライフ……」
「夕餉て」
「囲炉裏で温まりながら食事し、穏やかな会話とともに一日を終える生活……」
「囲炉裏ってなんだろう。温まるってことは、火炙り用の道具かな」
「雪が積もった日はくっついて暖を取りたいですねぇ……ああ、理想です」
「息をするようにくっつこうとするんですね。首を落としますよ」
「もう勇者さんったら……。いいですか、スローライフとはゆっくり生活するだけではありません。穏やかな時間の中で人生を楽しみ、人生の質を高め、人生を味わうのです」
「それと私にくっつくのにどんな関係があるのですか」
「スローライフをするとストレスが減るのだとか」
「いやだから……あれ、前にもそんな話がありましたね。ハグをするとどうたらって」
「よく覚えていますね!」
「つまり、ハグとスローライフは同じと」
「さすがにつまりすぎた考えな気がします」
「ハグは嫌なのでスローライフをしましょう。勝手にご飯が出てきて、ふかふかお布団があって、気温が昼寝にベストで、人間も魔族もいない世界……」
「スローライフというか、理想の世界ですね」
「理想は実現しないから理想なのである」
「それだとぼくのスローライフも実現しないじゃないですかぁ……」
「そうですね」
「そうですねって……。勇者さん、そろそろ旅を進めないとスローライフじゃなくてストップライフになりますよ」
「私は人生にストップをかけたいです」
「そんなこと言わないでくださいよ。ぼくは勇者さんとおしゃべりすることが大好きなんです。勇者さんの人生がストップしたらぼくはさみしいですよ。もっとおしゃ――むぐ」
「よくしゃべる口ですね」
「ぼくの口をストップさせなくても」
「スローライフのためですよ」
「というと?」
「ストレス軽減」
「ひどいですぅ~……って、勇者さん、ちょっと笑ってません?」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはスローライフというより怠惰ライフ。
勇者「世ぉのぉ中ぁみぃんなぁスローぉにぃなぁればいいんですよぉ」
魔王「しゃべり方がスローになっていますね」
勇者「こぉれぇ割とぉめんどぉくさいぃですぅ。はあ、もうやめよう」
魔王「短いスローライフでしたね」