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19.会話 記憶喪失の話

本日もこんばんは。

記憶喪失の話です。記憶喪失はいつだってロマン。

「アッ! 十時の方向から猛スピードでサッカーボールが!」

「なんですか、その説明口調。って、痛ぁ!」

「ああ……、勇者さんに直撃してしまいました……!」

「あ、頭がぐわんぐわんして……。視界の向こうに眼鏡の少年が見えた気が……」

「しっかりしてください、勇者さん! 解毒剤要りますか⁉」

「ううん……。がくっ」

「ゆ、勇者さーーーん‼」

「ハッ、ここは……? 私は一体……?」

「だいじょうぶですか、勇者さん? 気を失っていたのは一瞬でしたけど、ケガは……」

「…………」

「勇者さん?」

「失礼ですが、あなたは誰ですか?」

「な、なんですと……⁉ まさか、これが世に聞く記憶喪失!」

「私は何をしていたのでしょう。まるで覚えていません」

「ぼ、ぼくのことはわかりますか⁉」

「今しがた『誰ですか?』って訊いたばかりですが」

「そんなぁ! この儚げ美少女の顔を忘れちゃうんですか⁉ 頭おかしいですよ!」

「まるで私が悪いかのような言い方と大した自信ですね。殴っていいですか?」

「答える前に顔面を狙うのやめてください」

「ご自身の顔面に自身がおありのようでしたので」

「確信犯じゃないですか」

「それで、あなたは誰です? 私のことを知っているようですが」

「とっても仲の良いお友達ですよっ」

「私の魂が否定している」

「そんな……。ある時から一緒に旅をしているんですよ。一緒にご飯を食べて、一緒に魔物を退治して、一緒にお風呂に入っているのに! 忘れちゃうなんて!」

「三つ目は全力で否定させていただきます」

「ん……? 覚えているんですか?」

「いえ、知らないですね」

「……こほん。えー、人間は?」

「滅べばいいです」

「記憶ありますよね?」

「いえ、ありませんね」

「この白いお花、かわいいですね。摘んで行きませんか? 草はお茶にしましょう」

「遠慮します。死ぬので」

「記憶ありますよね?」

「いえ、ありませんね」

「ぼく、寝起きは良い方ですよね?」

「普段の行いを見てからほざいてください」

「記憶ありますよね? ねぇ?」

「いえ、ありませんね」

「もう! そんなに強情ならお医者さんに行きますよ」

「知らない人にはついて行かないという教えがあります。なので、私はここで」

「ちょっ、ちょっと、どこに行くんですか?」

「知らない魔王についていったら何があるかわかりませんから」

「いま、魔王って言いましたよね? 勇者さんーー‼」

「勇者って誰のことでしょうか。私は知らないですね」

「頑固ですねぇ。まったくもう、仕方ない人です」

「なんでついてくるんですか」

「記憶喪失の人をひとりにしたら危ないじゃないですか」

「ちょうどよく大剣が背中にあるのでだいじょうぶです」

「記憶がないのに使えるんですか?」

「こういうのは身体が覚えているものでしょう」

「ちなみに、どこに向かっているんですか?」

「この私にボールをぶつけたガキに制裁を」

「……覚えていますよね?」

「なんのことやら」

「あと、ガキなんて言ってはいけませんよ。勇者さんは勇者なんですから、あんまり悪いお口はめっです」

「私、記憶がないのであなたのことは知りませんが、ずいぶんお節介なんですね」

「そうでしょうか?」

「強情で頑固で優しくなくて口の悪い勇者なんて、放っておけばいいものを」

「ぼくはぼくの意思でここにいるんですよ。邪魔と言われても消えませんからね」

「お人好し」

「残念、ぼく、人じゃないんです。それを言うなら“お魔族好し”です」

「…………」

「あ、いま、ちょっと笑いました?」

「笑ってません。うるせえんですよ、このロリババア」

「絶対記憶ありますよね? ちょっと⁉」

「……ふふっ」

お読みいただきありがとうございました。

ボールを蹴った犯人は……。


勇者「定期的に記憶を失くそうと思います」

魔王「どういう脳をしているんです?」

勇者「もともと入っている記憶はろくなもんじゃありませんし」

魔王「ぼくとの思い出で上書きしましょう! 今日の夕飯はステーキです」

勇者「ステーキだけ覚えておきます」

魔王「便利な脳ですねぇ、も~」

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