187.会話 雪の日の話
本日もこんばんは。
雪も魔王さんも白いですが、幸いなことに白の種類はたくさんあるそうなので見分けはつくかと思います。
「一面真っ白銀世界! 雪が積もりました。わぁい、きれいですねぇ」
「白すぎて魔王さんがどこにいるかわかりません。保護色ですね」
「勇者さんは目立ちますね。これなら迷子になることもないでしょう」
「魔王さんはまじでどこにいるか本気でわかりません」
「輪っかでも光らせますか? えいっ」
「白に反射して目がぁ」
「す、すみません。ええと、どうしましょう。あっ、これの出番ですね」
「マフラー……。不吉な色ですねぇ」
「ぼくの大好きな色です。器用にさくっと編んでしまった勇者さんからいただいたぼくのマフラーです。どうですか、どこにいるかわかりますか?」
「不吉すぎるのでよくわかります」
「それはよかったです。せっかくきれいに降ったんですし、雪の世界をのんびり歩きませんか? それとも寒くていやですか?」
「首があたたかいので少しなら構いませんよ」
「えへへ。では、行きましょう。まだ雪がふわふわですね」
「……かき氷」
「だめですよ? この寒いのにかき氷なんて風邪まっしぐらですからね」
「わかっていますよ。だいじょうぶです。今は空腹ではありませんから」
「空腹だったら食べていたって言っています? だめですからね」
「こんなにいっぱいあるのに……」
「食べ物から離れて、他の感想はありませんか? きれいだなぁとか」
「歩きにくいです」
「ブーツですもんね。雪用の靴、買いますか?」
「いえ、だいじょうぶです。あとは、そうですね。足の一部がめちゃくちゃ冷たい」
「……金属ですからね。外しますか?」
「いえ。そういう魔王さんは、なにか感想はありますか?」
「銀世界に隠れて『魔王をさがせ!』ってやろうと思ったんですけど、どうでしょう」
「冗談抜きで難易度高い遊びですね」
「ハンデでマフラーつけます」
「難易度が急降下」
「一旦、外して隠れてみましょうか?」
「お好きに。私は目を閉じているので、隠れたら一言かけてください」
「わかりました。――勇者さーん、いいですよ~」
「……さて。…………真っ白。これは……」
「ぼくはどこでしょうか~。見つけてくださいな」
「そう言われても……あまりに白い。……すごいですね。まるで雪の世界に溶けたみたいです。白色が似合うというより、白色が人の形になったようですね。おっと、いけない。魔王さんは――ここですね」
「わっ! よくわかりましたねぇ。我ながら難しいと思ったんですけど」
「ほんとですよ。魔王さんをほっぽって帰ろうかと思いました」
「ご冗談を。それにしても、あちこちさがすのではなく、ピンポイントでぼくの居場所を当てましたね。なにかヒントでもありました?」
「簡単なことですよ。魔王さんの声がする方をさがせばいいんです」
「な、なるほど! いや、待ってください。それでわかるものですか?」
「雪は雨と違って音がしませんからね。静かな分、よくわかりましたよ」
「うさぎさんですね……」
「ちょっと休憩しましょう。よっこら――うわあぁ」
「木に積もっていた雪が落ちてきたみたいですね。だいじょうぶですか?」
「冷たい……。雪まみれですよ」
「勇者さんも真っ白ですね。ぼくとおそろいです」
「雪をかぶっても私の黒色は隠せませんよ」
「では、もっと雪をプレゼントしますよ。そぉれ~」
「そんな量じゃ意味ない――って、雪だ」
「そりゃあ、雪を上から降りかけていますから――おや、降ってきましたね」
「手のひらに乗せるとすぐ消えてしまうのに、こうして消えずに積もるものなんですね」
「人間の体温はあたたかいですからね」
「…………」
「なんですか――って、わぁぁあぁ! なあなななんななんですかどうしたんですか⁉」
「魔族の手はどうなのかなぁと思いまして」
「ゆゆゆううゆしゃさんの方からぼくのてってててててを握ってくるなんて夢かとおももおもいましたよ」
「そこまで動揺します? 愉快ですね。魔王さんの手もあたたかいですよ」
「あ、合わせているだけですよ……」
「こうして雪が降っている中いれば、あっという間に白くなるでしょうね。ただでさえ白い魔王さんが真っ白々になってしまいます」
「そうなる前に戻りますよ。体が冷えますからね」
「そぉい」
「なんで木に体当たり――って、わああぁぁぁぁあ⁉」
「落雪による強制真っ白チェンジです」
「勇者さんも巻き添えくらっていますけど……」
「あはは、めちゃくちゃ寒いです」
「かぶった雪でお顔が見えませんよ」
「真っ白勇者です。なんちゃって――くしゅん」
「体調悪くて顔色真っ白とか笑えませんからね⁉」
お読みいただきありがとうございました。
保護色すぎて雪の中では無双できそうな魔王さん。
魔王「勇者さんがぼくを見失わないように、今だけ虹色になろうかと思います」
勇者「どこをって訊いてもいいですかね」
魔王「そりゃあ、全身ですよ!」
勇者「訊くんじゃなかった」