186.会話 マフラーの話
本日もこんばんは。
何度見てもオシャレなマフラーの巻き方を忘れて冬が来るみなさまに贈るマフラーの話です。
「完成しました、渾身の手作りマフラーです。どうですかどうですか?」
「待て待て勝手に巻くな口が塞がれてああああ」
「長さもばっちりです。どやぁ!」
「ぷはっ。……あったかい」
「寒さが厳しくなってきましたからね。勇者さんのお身体を最優先に考えた結果です」
「その結果がこの大惨事ですか。床に絡まった糸が散乱しています」
「うぐっ。マフラーを編むのって結構難しいんですね……。何度も失敗しました……」
「でも、ちゃんと完成しているじゃないですか」
「じっくりばっちりがっちりしっかりみっちりきっちり編みました」
「編んだことしかわからなかった。マフラー、白色と水色なんですね」
「最初は青一色にしようと思ったんですけど、視覚的に寒いかな? と思ったので、白色をメインに淡い水色を編み込みました。がんばりました~」
「……ぬくい」
「気に入っていただけましたか? 寒い時はこれを巻いてくださいね」
「いただいていいんですか?」
「もちろんです。そのために編んだのですから」
「魔王さんの分はあるんですか?」
「ないです! 勇者さんのマフラーを完成させたら力尽きました!」
「元気ハツラツに言うことではない」
「ぼくはどうとでもなりますし、病気しませんし、問題なしです」
「ご自分の扱いが時折雑なんですよね、このひと」
「勇者さんに言われたくありませんよ。ぼくの心配をしてくださるというのであれば、こうします」
「うわわわ、近い苦しい狭い暑い動きにくい……」
「ちょっと長めに編んだ理由です。一緒に巻けば寒くない!」
「やめろ元気よくガッツポーズしないでください首が締まる!」
「す、すみません。あっ、取っちゃうんですかー……」
「室内ですし、このままだと首がもげる気がしたので安全のために」
「安全のためなら仕方ありませんね。ぼくは大惨事の片づけをしますよ」
「この糸はもう使えないんですか? ちょっともったいない気がします」
「使えなくはないですよ。絡まりまくっていますけど」
「他の色はありますか?」
「もちろんです。何度失敗してもいいように、練習用に買いましたから」
「最初からマフラーを買うという選択肢はなかったんですね」
「がんばってもだめだったら、考えていましたよ。手作りより防寒が優先ですからね」
「……。この中から好きな色を選んでください。二色」
「赤と黒ですね。いやぁ、在庫が有り余っていたので大量に買ったんですけど、勇者さんのマフラーには使わない色なのでどうしようかと思っていますよ」
「この目潰しに便利そうな道具はなんですか」
「ぼくが先端恐怖症じゃなくてよかったですね。危ないです。それは棒針ですよ」
「なるほど。名前的にも目潰し用ですね」
「完全に否定できないところが悔しいですよ。それは編む時に使う道具で、こんな感じに、えっと、こう、あれ、たしかここを持って、……、たぶんこうです!」
「よくマフラー作れましたね」
「愛の力です」
「真っ直ぐ言わないでください厄介ですねこの魔王」
「魔法は使っていませんよ。ほんと!」
「そんな必死に言わなくてもわかりますよ。がんばりましたねーえらいですねー」
「褒められていることと毛糸でぐるぐる巻かれていることにどんな関係が……」
「すみません、内なる私が抑えきれなくて」
「そ、そうですか。気が済むまでどうぞと言いたいところですが、そろそろぼくの姿が消えてしまうと思います……」
「こういう人形ありませんでした?」
「毛糸で作る人形はいろいろありますけど、パッと思い浮かぶのはとある願掛け人形でしょうか。ハッ、ぼくが勇者さんの願いを叶える人形になるってことですね。いいでしょう、どんとこいです」
「私が知っているのは呪いの人形だった気がします。魔王さん的にはぴったりですね」
「勇者さんの願いを叶える呪いの人形ですか?」
「ひねくれた叶い方をしそうですね」
「ちなみに、この状態とってもあたたかいです。マフラーじゃなくてもよさそうです」
「その見た目で外を歩かないでほしいです」
「マフラーを全身に巻いているようにギリ見えます」
「ギリアウトです」
「そんな……。って、わぁああぁぁ~巻き取らないでくださいいぃぃぃ」
「使うので」
「ぼくに巻いた毛糸を使わなくてもぉ。まだこんなにあるんですよ」
「いえ、これが一番、呪いが強そうなので」
「な、なにを作るおつもりですか」
「不幸と不吉と呪いを詰め込んだ拘束具を」
「赤色と黒色のマフラーをそんなふうに言う人は初めてですよ」
お読みいただきありがとうございました。
例のごとく勇者さんはあっさりマフラーを編みました。
勇者「完成です。どうぞ」
魔王「ありがとうございます。首を絞めないでください」
勇者「こうやって使うんじゃないんですか?」
魔王「絞めるならヒモとかでいいでしょう!」
勇者「ツッコむところ、そこじゃないと思いますよ」