185.会話 冬将軍の話
本日もこんばんは。
外より家の中の方が寒いです。
「寒い、寒すぎる! この寒さは冬将軍が来ているに違いありませんね」
「誰ですか? 斬っていいですか?」
「斬れるなら斬ってもいいんですけどね、残念ながら人じゃないんですよ。冬将軍とは、簡単に言うと冬の厳しい寒さを擬人化した言葉なんです」
「なんでもかんでも擬人化すればいいってもんじゃありませんよ」
「手遅れですねぇ。ぼくも魔王の擬人化みたいなものですし」
「なんでもかんでも擬人化すればいいってもんじゃありませんよ。まじで」
「二回言った……。強調して……。いいじゃないですか、こんなにかわいいんですよ?」
「自分で言うところがね。なんかもうね。はい」
「勇者さんの視線が氷のように冷たいのですが、これも冬将軍が来ているからでしょう! そんな冬将軍さんですが、もしかしたらとってもかわいい見た目をしているかもしれませんよ。かわいいは正義です」
「将軍っていうのが、少しいかつすぎる気がします」
「では、改名していただきましょうか? 冬中佐とかどうでしょう?」
「もうちょい」
「冬軍曹!」
「堅い」
「冬二等兵!」
「許せる。ていうか、なんで階級縛りなんですか」
「改名前が将軍なので、そっち方面で固めてみました。お気に召さなかったようですね。勇者さんのご意見をお聞かせ願っても?」
「冬の運び屋とか」
「物腰が柔らかいのにどこか不穏な気配がしますね」
「冬の宅急便とか」
「どこかの魔女さんが飛んできそうですね」
「冬のお届け物~送料は着払いで~」
「それっぽく言っていますが押し付けているだけですね」
「ピンときませんねぇ。どうしようかな」
「ピンとくるものを考えていた様子はありませんでしたが、黙っておきましょう」
「いい案が閃きましたよ、魔王さん」
「ぜひ聞かせてください」
「そもそも来なけりゃいいんです」
「安定の暴論にもはや心が落ち着いています」
「こんな寒さは求めていないので、冬将軍にはお帰りいただいて結構です」
「結構して帰ってくれたら困らないんですけどね。自然現象ですからねぇ」
「冬将軍って聞くと若干腹立つので『世界絶対凍らすマン』とか言った方がいいですよ」
「そう言えば許してくれるんですか?」
「さらに腹立ちますね」
「だめじゃないですか」
「違いますよ。怒ることで体温を上げ、寒さをしのぐ寸法です」
「感情が死んでいる勇者さんにも使える技なんですか?」
「ちょっと無理ですね」
「だめじゃないですか」
「仕方ないのでこたつを所望します」
「最初からそれが目的ですよね?」
「私が風邪ひいてもいいんですか?」
「だめに決まってるじゃないですか‼ できることなら『着られる! 動ける! 着衣式こたつ!』を開発したいですよ」
「キャッチコピーみたいに言うのやめてもらっていいですか」
「ずっとお宿にいるわけにもいかないので、防寒するしかありませんから。ですが、この冬将軍さんはちょいとばかり厳しすぎるのではありませんかねぇ?」
「怒っても相手は自然現象ですよ」
「怒りで暑くなってきました。ですので、ぼくの上着を勇者さんにお貸ししますよ」
「え、いや、結構ですけど」
「着てください。そして他の超強力防寒着を買いに行きましょう」
「いや、別にいらな――」
「さあ! さあっ‼」
「魔王さんの圧で周囲の気温が上がっている気がします。暑苦しいです」
「着てくれないならぼくが勇者さんを抱きしめながら歩きますよ」
「わあー、この服あったかそうですねー。ありがたくお借りしますねー」
「うれしいような虚しいような……。まあ、風邪引かないでいただければ……はい……」
「将軍とやらはいつまでいるんですか? さっさと降格されてほしいです」
「暖かくなってほしい、ってことですかね。もうしばらくはいると思いますので、今日もあったかくして過ごしましょうね。まずは防寒着をこれでもかと買いましょう」
「着込み過ぎても動きにくいので嫌なんですけど」
「わがままですねぇ。勇者さんはわがまま将軍ですね」
「不名誉な称号を得た」
「上着を貸してしまってぼくも寒いのでくっついていいですか?」
「そのまま凍えればいいです」
「冬将軍もびっくりの冷たい対応ですね……」
お読みいただきありがとうございました。
着るこたつって実際にあるみたいですね。
勇者「毛布を巻いているだけじゃないですか?」
魔王「ヒーターが内蔵されているのではないでしょうか」
勇者「私はこたつを背負って生きていきたいんです」
魔王「新種の亀みたいですね」