184.会話 おせち料理の話
本日もこんばんは。
おせち料理は見るだけでお腹いっぱいになるので困ったものです。
「なんだかきれいな料理ですね。箱だけ見たらなにかと思いましたよ」
「プレゼントの箱を開けるみたいで楽しいでしょう? さあ、たくさんお食べ~」
「見たことない料理が多いです。こうやって箱に詰めるといいことでもあるんですか?」
「このお料理自体がいいことなんですよ。おせち料理と言って、元は節日に食べる料理を指したんですけど、まあそれはよくて。縁起のいいものがたくさん詰まっているのです。例えば、この黒豆」
「色が不吉」
「そ、そうなんですけど、ええと黒豆の意味は無病息災なんです。病気もなく元気でいられるように願いが込められているんですよ。勇者さんにぴったりです」
「無病息災を願われるのはいいとして、それを願っているのが黒豆というのが……」
「すごく不満そうな顔で食べている……。おいしいですか?」
「はい。ていうか、おいしくないものを入れることあります?」
「おせち料理があまり好きではないという人もいるんですよ。行事だから食べるけど……って感じで。勇者さんのようにむっしゃむっしゃ食べる人の方が珍しいかもですね」
「これおいしいです。食感がおもしろい」
「数の子ですね。子孫繫栄の意味がありますよ」
「なんだと。じゃあ食べるのやめないと」
「血筋を途絶えさせる強い意志を感じる。だいじょうぶですよ。数の子を食べるだけで子孫が繫栄したら苦労ありませんから」
「正論かもしれませんが、いま言わない方がよかったかもしれませんね」
「おっと。では、こっちはどうですか? 紅白かまぼこです。紅色には魔除けの意味が、白色には清浄・神聖の意味があるんですよ」
「どちらかというと魔なるものが寄ってくると思うんですけど」
「別の意味をお教えします。日の出っぽく見えるので門出というのはどうですか?」
「いい意味だとしても、赤って時点でちょっとな」
「だ、伊達巻きどうぞ! おいしいですよ。意味は学業成就です」
「甘いですね。勉学はこんなに甘いもんじゃないですよ」
「ぐっ……。では、エビはどうですか? おいしくて意味も――アアッ! 長寿だった! 勇者さんに拒否られる未来が見える!」
「おいしいのには同意です。長寿は結構ですけど。……あ、こんにゃくありますよ」
「ぎくっ。こ、こんにゃく……」
「どんな意味があるんですか?」
「え、縁結びとか、良縁とか……」
「すばらしいですね。食べるしかありませんよ。私以外の誰かと縁ができますように」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「驚きの悲鳴ですね。こんにゃくが苦手なのは承知済みですが、それにしてもすごい悲鳴ですね。だいじょうぶですか?」
「勇者さん以外と縁を結ぶくらいなら、ぼくはこの場で命を棄てます……!」
「迫真の顔ですね。不老不死のくせに」
「勇者さんも昆布巻き食べます? あわびもどうぞ」
「気配が怪しいんですが、どういう意味の料理ですか?」
「……な、長生き、とか」
「ふーん? 正確に言いやがれください」
「……ふ、不老長寿です」
「おせち料理って長生きしたい人が作ったんですか?」
「ど、どうでしょうね……。あ、食べるんですね」
「魔王さんも言ったことですけど、昆布巻きを食べるだけで不老長寿になったら、世の中とんでもないことになりますよ」
「あはは、たしかにです。まあ、気持ちってことですね」
「それにしても、結構な量がありますね。私は平気ですけど」
「元々は三日間くらい食べる用のものですからね」
「三日は足りんだろ……」
「勇者さんにとってはぺろりですからねぇ。たんとお食べ~」
「白米はないんですか」
「もちろんあります。どうぞ」
「ありがとうございます。魔界にもおせち料理を食べる文化はあるんですか?」
「いえ、ありませんよ。ですが、人間界の文化は魔界にも入ってきますから、真似しているものたちはいるでしょうね」
「魔界なら黒豆とか紅かまぼこも縁起が良いものになるんでしょうね」
「おや、たしかに。ですが、あのものたちに無病息災とか魔除けとかいりませんよ。繁栄されたらたまりません」
「魔王のセリフじゃないですね」
「勇者さん、エビどうぞ。まだありますからね」
「どうも。……ちょっと、エビばっかりお皿に入れるなこらエビ多いですよエビちょい」
「まだエビありますよまだあります」
「うるせえんですよ、エビばっかりいりません。気持ちがどうのって言いながら、一番気にしてるじゃないですか」
「うう~……。あ、勇者さん~、やっほ~」
「れんこん越しに私を見るな」
「えへへ、よく見えてよかったです」
お読みいただきありがとうございました。
「最後のれんこんはなんぞ?」と思った方はおせち料理の意味を調べると「ふむ」となるかもしれませんし、ならないかもしれません。
魔王「きれいに食べますねぇ」
勇者「空っぽにして、閉じて開いたら中身が回復しているんでしょう?」
魔王「どんなファンタジーですか」
勇者「なに言ってんですか。元々ファンタジーですよ」