183.会話 映画の話
本日もこんばんは。
映画館で観る映画にはすてきな価値がありますが、家で思うがままに観る映画にもすばらしいものがあると思います。つまり映画はいいぞってことです。
「このシーン、人間の数が多いですね。どこから集めてきたんでしょうか。誘拐?」
「エキストラの方たちだと思いますよ。誘拐されていたらもっとパニックになっていると思います」
「じゅうぶんパニックですよ」
「ゾンビに追われているからだと思いますよ。エキストラというのは、プロの演者さんとは異なる一般の方々のことなんですけど、ああいった人数だけほしい時などに重宝されているんですよ。ぼくも仕事ほっぽってよく参加しましたよ」
「なにしてんですか」
「走って逃げる役とか、道端に転がっている死体役とか、通行人役とか」
「テキトーに観ている時に魔王さんが映っている可能性があるんですか……」
「なんでそんなに嫌そうなんですか」
「知り合いがテレビに出ていると絶妙な感情に襲われて観られなくなるアレですよ」
「どれですか。ぼくはテレビに勇者さんが出ていたら録画してディスクに焼いて永久保存しますよ!」
「消すしかない」
「テレビ出演で『誰あの美少女⁉』『歌がうますぎる!』と話題になり、歌姫として映画に出演する日も近いですね」
「妄想のスピードがはやいですね。もっと他のことに思考を役立ててください」
「勇者さんを広めることは世界にとって有益です」
「間違ってはいないので何も言えない」
「ちょっとした出演からどんどん発展していく様子はそう、さながら腐ったみかんがすべてのみかんに襲い掛かるのと同じ……」
「例えがへたくそですね。もうちょっとなにかあったでしょう」
「勇者さんが映画観ながらみかんを食べているので、思考が寄ってしまいました」
「もしオファーがきても絶対やりません。そういうのは魔王さんの妄想の中だけにしてください」
「全世界から愛される歌姫勇者さんを妄想します」
「うげ……。思ったんですけど、姿を自由自在に変えられる魔王さんは演技するのにうってつけじゃないですか? 俳優魔王、どうですか」
「出演するたびに姿が違ったら魔族だってバレますよ」
「よくあるじゃないですか。役作りのために体重を減らすとか、筋肉をつけるとか」
「そのレベルで収まればいいんですけどね。女子高生役をやった翌日にダンディな紳士が来たら、それはもう別人ですよ」
「役者魂を感じますね」
「恐怖を感じると思いますよ」
「いっそ、魔王役で出演すればいいじゃないですか。はまり役ですよ」
「ぼくの場合はご本人登場が一番はまっていないんですよ」
「魔王っぽくないって叩かれて炎上して大ゴケすればいいです」
「映画製作に携わる方たちのために魔王っぽく変装します」
「そもそも、魔王が出てくる映画って売れるんですかね。大悪党でしょう」
「魔王がこてんぱんに倒される映画は結構ありますよ。ぼくもよく観ます」
「観るんですね。そこは怒った方がいいですよ」
「フィクションの中でくらい好き勝手やったっていいじゃないですか」
「フィクションもびっくりの好き勝手やりまくり選手権優勝の魔王さんが言うな」
「簡単に理想が実現する夢を見られるのです。そりゃあ、誰だって映画を撮りますよね」
「観るんじゃないんですね。そんなに軽率に作るもんじゃないですよ」
「ぼくもいつか撮ろうと思っています。主演・勇者さん、監督・ぼくの映画を」
「いくらギャラを積まれても断ります」
「勇者さんのこれまでをドキュメンタリー映画にした全ぼくが泣いた映画ですよ⁉」
「魔王さんしか泣いていないじゃないですか」
「ティッシュの在庫が切れたと騒動になり、タオルは洗剤のCMくらい使うでしょう」
「それだけ泣いたら水分がなくなって死ぬと思いますよ」
「死にかけたぼくの元へ颯爽と駆けつけ手を差し伸べる勇者さんで予告編が終了」
「捏造もいいとこですね」
「歴代ナンバーワンの興行収入を獲得し、後世に語り継がれる傑作になるでしょう」
「ここまできたら黒歴史とか言ってられませんね。あ、どうせ撮るなら……」
「なにかやってみたい役が?」
「人間どもを無に帰す破壊神の役とか」
「それたぶん魔王ですね」
「指先ひとつで災害を巻き起こし地面をひっくり返す役とか」
「それもたぶん魔王ですね」
「視界に入った店のメニューをすべて食べ尽くして世界を支配する役とか」
「それは……勇者さんですね」
「間違えたと思われるくらいの火薬を使って辺りを火の海に」
「環境破壊はいけませんよ」
「すると見せかけて大規模バーベキューをする」
「打ち上げですか? 楽しそうですね!」
「もちろん魔王さんは隣で火炙りです」
「映画では頻繁に炙られていますよ。焼いても死なないんですけどねぇ」
「フィクションの中でくらい大人しく焼かれてください」
お読みいただきありがとうございました。
魔王がこてんぱんにされる映画は映画館まで観に行く魔王さん。
勇者「勇者が主人公の映画も多いですね」
魔王「定期的に新作が公開されますからね。ぼくは欠かさず観ていますよ」
勇者「おもしろいのかなぁ……」
魔王「一番おもしろい勇者はどう考えてもきみですけどね」
勇者「これは果たして褒められているのだろうか」