182.会話 白い息の話
本日もこんばんは。
雨が降ろうと風が吹こうと年が明けようと勇者さんと魔王さんはいつものようにおしゃべりするでしょう。そんなわけで、今日も今日とて会話をするおふたりをどうぞ。
「ほあぁ……、息が真っ白ですよ~。寒さが可視化しているようで、つい体が強張ってしまいますね」
「さっっっっむい……。こたつ……羽毛布団……床暖房……ストーブ……!」
「残念ながら、ここは屋外ですのでなにひとつないですね」
「悲しい……。こんな寒い日に外に出なくてもいいじゃないですか。嫌がらせですか?」
「今日という日は今日だけなので、今日だけの思い出を作ろうと思いまして」
「今日今日やかましいですね。シカ科ホエジカ属に分類されるシカの一種ですか」
「それはキョンですね。似て非なるものです」
「今日だけの思い出を作ることには0・5歩譲るとして」
「せめて一歩踏み出してほしいです」
「特になにもないまま歩き始めて一時間ですよ。なにをするおつもりですか」
「はえ?」
「なにも決めていない顔ですね。ぶん殴ろうかな」
「ま、待ってください。いましています。ええと、寒さを味わうです!」
「まだキョンと戯れる方がマシです。寒さを味わうってなんですかドMですかどうでもいいのではやく焚き火でもしましょうよそんで魔王さんを火炙りにしてやる」
「怒らないでくださいよう。凍えるほどの気温でもありませんし、かけっこして体を温めるとか――」
「命がけの勝負といきましょう」
「ガチオーラの勇者さんにぼくは震えが止まりません」
「寒いからですよ。やっぱり撤収して店なり宿なり洞穴なりに身をひそめましょうよ」
「その選択肢ならお宿がいいです。仕方ないですねぇ、わがまま勇者さんのために真っ昼間からお宿探しといきましょうか」
「…………」
「なにしているんですか?」
「白い息はきらいじゃないです。寒いですけど」
「そうですか。ぼくも好きですよ」
「生きてるーって感じがします」
「あっ、わかります! 命の息吹って感じですよねぇ」
「なにもしていなくても、白く消えていく息を見ていると、まだ生きてるんだなって思いますよ。その前に寒いんですけどね」
「あはは……。寒さを感じるのもまた、生きているってことですよ。……あの、いまちょっとイイ感じのお話していたと思うんですけど、なに食べているんですか?」
「トマトですけど?」
「そんな当然のように言われても……。あれですかね、ぼくがおかしいんですかね」
「そうですね」
「すごくどうでもよさそうに答えますね。どうしてトマトを食べているんですか? というか、今どこから出しました?」
「白い息を見ていたら思ったんです。なんで白いのかなぁって。なので、赤いものを食べたら息は赤くなるのかなと」
「なので、のところからぼくは置いてけぼりです。ですが、おもしろい考えですね」
「はあ……ふう……あれ、白いですね。だめみたいです」
「学びの精神を感じるので、僭越ながらぼくが『なぜ息は白いのか』をご説明――」
「次はきゅうり」
「この寒いのに⁉ あっ、反応を間違えました。真冬に夏野菜!」
「その反応もたぶん違うと思いますよ。きゅうりを食べたら息は緑色に……ならない」
「そうでしょうね……。息が白く見える理由は食べたものと関係ありませんから」
「許せない。次は黄色パプリカ」
「許せなくて生野菜を食べているんですか?」
「ふう……。だめか。じゃあ最後に青色……」
「青色の食べ物ってなんでしょう。あんまり見ませんよね」
「……ない。やれやれ、つまらない世の中ですね」
「その判定にはさすがの世の中も遺憾だと思いますよ」
「虹色の食べ物を食べたら口からレインボーブレスが出る世界、愉快だと思いませんか」
「口からレインボーは別のものを想像するのでちょっと……」
「魔王だけ特別に息がきらびやかとかどうですか。ラメ入りです」
「いやすぎて息をするのをやめると思います」
「『魔王』『魔王』って息に乗っているとか」
「シリアスな会話シーンとかだいじょうぶですかね?」
「絶対に笑ってはいけない会話シーンですね」
「笑い過ぎたら息をたくさんするのでさらにやかましいことになりそうです」
「食い気味に『魔王』が出てくるの、ちょっとふふ、かなりふふっ、あっはは」
「勇者さんが笑ってくれるなら、そうしよっかな……」
「やめろやめろやめろ早まるな」
「ぼくはこの身を犠牲にしてでも勇者さんのために」
「そういうのいいので、渾身のギャグとかやらなくていいので」
「ぼくの持ちネタにしてもいいかなと思ったんですけど」
「これまで以上に知らない人のフリをします」
「じょ、冗談ですって。あっ、めちゃくちゃ大きなため息ついてる! わぁぁん!」
「白い息を観察していただけです」
お読みいただきありがとうございました。
それでは、2023年がみなさまにとって良い一年になりますように。今年もよろしくお願いいたします。
勇者「息から『勇者』」とか『魔王』って出ていれば、一発でわかって便利かもしれません」
魔王「その代わり、何か別のものを失いそうですが、だいじょうぶですかね」
勇者「失うものなどなにもない」
魔王「そう言いながらお菓子を鞄に詰めないでください」