179.会話 無人島の話
本日もこんばんは。
無人島って行くのも暮らすのも大変ですよね。
無人島が来いって思います。そんな話です(違います)。
「無人島に何かひとつだけ持っていけるとしたら、勇者さんは何を持っていきますか?」
「ひとつだけ……? ていうか、なんでそんなににっこにこなんですか。気味悪いです」
「た、ただ微笑んでいるんです。気にしないでください。それで、回答はいかに?」
「そうですねぇ。なにも」
「なにも⁉ 持っていかないんですか?」
「無人島ってあれですよね。なにもない、誰もいない、未開拓の土地って感じの島」
「そうですよ。だから生きていくために道具や食べ物が必要なんです」
「うーん、やっぱりいらないです。なんとかなるんじゃないですか?」
「テキトーですねぇ。なんとかならなかったらどうするんですか?」
「その時は死ねばいいんじゃないですかね」
「死なないために何か持っていくんですよ。もうちょっとがんばってください」
「神様ーなんとかしてくださいーよろしくー」
「神様に頼むくらいならぼくを呼んでください!」
「お腹すいたよーって言えば元気百倍な魔王さんが飛んでくるんですか?」
「もちろんです」
「ご自分の顔を千切って食べさせてくれると?」
「もちろ――あ、それはちょっとナシで。モザイクかけないといけません」
「そもそも、なぜ無人島に行くのでしょう」
「何か用事があったとか、漂流してしまったとか」
「前者なら最初からある程度の荷物があるでしょう。後者ならむしろ一切の荷物がないといえます。何かひとつだけ持っているというのもおかしな話でしょう」
「現実的なことをおっしゃる……」
「強いて言えば、この身ひとつってとこですかね」
「それっぽく言っていますが、身もなかったらそれはつまり死んでいますよね」
「最初から死んでいたら無人島無双できますよ」
「どんな特殊能力ですか。それなら無人島以外でも無双ですよ」
「結局、無人島なんか行くもんじゃねえってことです」
「あれ、なんの話をしていたんでしたっけ……。勇者さんとお話していると度々記憶が消えてしまうのです」
「認知症でしょうか。病院行った方がいいですよ。無人島にはないでしょうけど」
「あっ、そうでした無人島に持っていくものでしたね。ぼくなら勇者さんを持っていきます。もとい連れていきます」
「道連れにするおつもりですか。いいでしょう、戦争ですね」
「そ、そういう意味ではなく。無人島でも勇者さんがいればはっぴーということです」
「私の幸せはどうなるんですか。やはり魔王、他者など欠片も気にせずエゴを突き通す存在なのですね。よしきた、戦争しましょう」
「ぼくは争いを望みません。ところで、無人島といっても程度があります。植物や動物の生息環境や近海の状況、島に関わる天候など、場合によっては生活するのに最適である可能性もあります。どうですか、一から無人島生活をするというのは?」
「普通に嫌です」
「ぼくがいても?」
「それでオーケーが出るとお思いで?」
「悲しい。いけると思ったんですけど……」
「どの辺がいけると思ったのか教えていただきたいですね。どう考えても無理でしょう。勇者と魔王のふたり無人島生活って。新手の都市伝説ですか」
「伝説は創るものです」
「やかましいわ」
「ですが、無人島ならば非常に静かな生活を送ることができますよ。なにせ無人ですからね。そよ風に吹かれ、木漏れ日を受けながらお昼寝ができるでしょう」
「魔王さんがいるなら無人じゃないんですよ」
「やだなぁ、勇者さんったら。ぼくは人じゃありませんよ?」
「へりくつ。へりくつだ。それなら魔族がうようよしていても無人ってことじゃないですか。騙されませんよ、私は」
「勇者さんとのわくわくどきどきアドベンチャー無人島生活を邪魔する魔族どもは木っ端微塵にします」
「……あ、はい。でも、一から何もかも作るのはめんどうです。材料の調達から始めるんでしょう? 考えただけで体から力が抜ける思いです」
「料理と同じで、自分で作るからこそ、より思い入れや愛着が生まれるのでしょう」
「料理しない……」
「アッ、えっと、そうですね……。何事もやってみるのが一番です。料理も開拓も」
「たぶんですけど、料理と開拓は並べちゃいけないと思いますよ」
「あばばばば……。では、勇者さんが開拓して作りたいものを訊くとしましょう」
「無理やり話を変えたな。そうですね、まずは映画館を」
「まずは家とかじゃないんですね。あれかな、映画館に住むのかな」
「次に土産物屋、宿泊施設、温泉、ヘッドスパを――」
「観光地を作る話でしたっけ?」
「――作るのはめんどうなのでどこかの島から島民を追い出しましょう」
「開拓じゃなくて侵略ですね」
「人がいなけりゃ無人島なんですよ」
「故意過失にかかわらず、溺れて死んだら死因は溺死ってのと同じ理屈ですね」
お読みいただきありがとうございました。
もしおふたりが無人島に行っても、魔王さんが大体なんとかしてくれると思います。
勇者「好き好んで無人島に行くひとなんているんですかね」
魔王「非日常を味わうのではないでしょうか?」
勇者「キャンプでもしてろって感じです」
魔王「キャンプだと足りないんでしょう」
勇者「なにが?」
魔王「命の危険が」