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178.会話 廃墟の話

本日もこんばんは。

とある廃墟映画がめちゃくちゃよく眠れるのでおすすめです。

「勇者さんって、廃墟で野宿するの好きですよね。今日も廃墟群を見つけると早々に足を止めましたし。なにか理由でもあるんですか?」

「人がいない」

「たしかに、人いなければ命の気配もしませんけど……。ですが、こういった場所は魔なるものたちがたむろするのにうってつけですよ。これまで何度も出くわしたでしょう?」

「その度に、魔王さんがひと睨みして追い払っていますよね」

「思考力のないばかには利きませんよ」

「その度に、魔王さんが塵ひとつ残さず消し去っているじゃないですか」

「ぼくとしては、野宿するにも他にもっと安全そうなところを……と思うのですが」

「好きなんですよ、廃墟。静かで、色も音もなくて。ここにいると終わりを感じられるような気がして、よく眠れるんです」

「吹きさらし、割れた地面、いつ崩れるかわからない残骸、巻き付くつた……。とても眠れるような場所ではないんですけどね。屋根がある廃墟もあるのに、なぜかここを選ぶんですから……。勇者さん、せめて一枚敷いてください。身ひとつで寝っ転がってはケガをしますよ」

「コンクリートが冷たい……」

「風邪引いちゃいますよ。夜通し焚き火をしますけど、もっと重ね着を――」

「……招かれざる客が来たようですね。今日は貸し切りですよーって言っても無駄か」

「…………」

「めちゃくちゃ『こっち来んなオーラ』を出しますね。平気ですよ。来たら来たで倒しますから。めんどうだけど」

「……ここら一帯、どうやら彼らのテリトリーのようです。まったく、ここは人間界だというのに、魔なるもののくせに厚かましいことを」

「人間がいないのでほっといてもよさそうですね。近くに集落もありませんし」

「というより、テリトリーになっているから人間たちがいないんでしょうね。この廃墟群も、彼らに荒らされてこうなったのでしょう。ここの傷、動物にはつけられませんから」

「旅をしている中で、こうした廃墟を何か所も見ましたね」

「逃げ出せるならまだマシ、最悪皆殺しです。みんな消えてしまえばいいのに」

「魔王さんならできそうですけど」

「だめなんですよ。残念ながら」

「だから勇者がいるんでしょうね。……私、ちょっくら散歩してきます」

「おや、そろそろ夕飯ができますよ」

「お腹をすかせようと思いまして。あとはそうですね、このままでは気持ちよく寝られないので、少し掃除を」

「……。ぼくも一緒に行きましょうか?」

「だいじょうぶです。廃墟群をぶらぶらしてくるので、少し遅くなるかもしれませんが」

「わかりました。では、ここでお待ちしていますね。お気をつけて、勇者さん」

「はい。いってきます、魔王さん。……ってことで、薄暗くなってきた廃墟群をぶらついている私ですが、想像以上に魔物が多そうでやる気がだだ下がり中です。帰りたい。はぁーあ、今日の夕飯なにかなー。お腹すいたなー。お腹すかせるためって言っちゃったけど、実は最初からすいていたんですよねぇ。なにも考えずにしゃべるとああなります。我ながらおばかさんだなぁと思ったり思わなかったり……あ、魔物発見。剣を取り出すのもめんどくさいなぁ……。魔法、どうやって使いましたっけね。こんな感じ……おりゃ。お、いい感じです。この調子で一掃するとしましょう。……この廃墟群、かつてどれだけの人が住んでいたのでしょうね。朽ちる時を待っている今、ここを覚えている人は果たしているのでしょうか。寝心地が良かったら私が覚えていて差し上げます。さて、今更、駆逐したところで過去は戻りませんけど、一宿させていただくお礼はしますよ。だって私、勇者ですからね」

「――あ、お帰りなさい、勇者さん。おケガはありませんか?」

「ただいまです。はい、問題ありません」

「……お散歩、長かったですねぇ。ご飯、できていますよ」

「運動がてら大剣を振り回してきたのでもう限界です。……予想していたより数が少なかった気がしますけど。でもまあ、きれいになりましたよ。魔王さんも睨みをきかせる必要はないでしょう」

「それはそれは、お気遣い感謝します。そうですね、いい風を感じます。廃墟は物悲しい気分になるので苦手ですが、勇者さんがいれば気になりませんし。そういえば先ほど、けたたましい音が聞こえたんですけど、なんだったのでしょう?」

「さあ。私が聞いたのは魔物の断末魔くらいで、他はわかりません」

「そうですか。勇者さんの眠りを妨げるおそれがないのであれば、問題ありませんよ」

「魔王さんって、私がぶらぶらしている間、ずっとここにいたんですか?」

「はい、そうですよ」

「一歩も動いていない?」

「ええ」

「そうですか。あ、これおいしいです。なんのスープですか?」

「今日はきのこのクリームスープです。パンをつけて食べてもおいしいですよ」

「美味。魔王さん、今日も日記書くんですか」

「もちろんです。毎日書いていますよ。ぼくの日課ですから」

「……これでふたり、ですか」

「ふたり?」

「私、廃墟ではよく眠れるのでね」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんが廃墟で眠るのはあまりよく思っていない魔王さん。


魔王「今日こそ山を抜けて町まで行きますよ!」

勇者「あと何キロくらいあるんですか?」

魔王「聞いた話では、五十キロほどです」

勇者「廃墟でもう一泊ですね」

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