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177.会話 古書の話

本日もこんばんは。

古典の授業は好きでした。

「どういう感情の顔ですか、それ……?」

「いつか魔王さんの日記を盗み読みしようと、読み書きの勉強をしている私ですが、たまたま見つけた書物を開いた途端、今までの努力を笑われた気がして不満という顔です」

「言語が統一されているわけではありませんし、その国、その土地独自の言葉は各地に残っていますからね。勇者さんが学んでいるのは最も広く使われている言葉です。わからない言葉があっても気になさらないでください。内容が気になるのであれば、ぼくが代わりにお読みしますよ」

「これなんですけど」

「アアー……」

「どういう感情の声ですか、それ」

「これは読めなくて当然というか、なんというか……。簡単に言えば、とっても古い書物なんですよ。使われている言葉も、今となっては理解できるひとは少ないでしょう」

「読めるひとがいないのに、残しておく意味があるのでしょうか」

「ここまでくると、存在自体に価値が生まれたりするんですよ。ほら、装丁とかきれいだと思いませんか?」

「まあ……。ちなみに、魔王さんは読めるんですか? このみみずが這ったような文字」

「読めますよ。この世界に存在する言語はだいたいわかると思います」

「さすがロリババア。知識量が歴然ですね」

「時間だけはありますし、世界各国から勇者がいらっしゃいますからね。言葉がわからないと困るでしょう」

「対峙した時に『なんて?』ってなったら、それはそれでおもしろいですけどね」

「対人関係の基本は会話だと思っていますから。言葉、大事!」

「同じ言葉を使っていても話が通じないひとはたくさんいますよ」

「それはたしかに。ところで、この本、どこで見つけたんですか? かなり古いもののようですし、ひとによっては貴重なものになると思いますが」

「落ちてました」

「落ち……。どこにです」

「道の真ん中に」

「真ん中……。道端とかじゃなくて、真ん中ですか。なんでまた中央に」

「普通に考えたら落とし物でしょうね。遠くに人影が見えましたし」

「それをはやく言ってくださいよ」

「小さいものでもありませんし、気がついたら戻ってくるでしょう」

「……届けるのがめんどくさいんでしょうね。でもだめです。勇者として正しい行いをしてください。ほら、行きますよ」

「ああー……。いやだぁ……。人間だった。絶対人間だった。まだ魔族の方がいいです」

「人間の方が安全でしょう。勇者なら魔族の方がいいとか言っちゃだめですよ」

「あああー……。わかりましたよ、自分で歩くので引っ張らないでください力が強いんですよ離せこら」

「勇者さんが強情だからいけないんですよ。はい、しっかり持っていてくださいね」

「なんで私が……。はあ、こんなわけのわからない文字を読んでなにがおもしろいんだか……。なんにも読めない」

「今は読めなくても、この文字を勉強したらこの本が読めるようになるんですよ。少し前の勇者さんは文字自体を知りませんでしたが、今は少しずつわかるようになっているでしょう?」

「まあ……。魔王さんの日記を読む日も近いと思います」

「そ、それはやめてくださいね。その本、結構厚みがあるんですね。びっしり書かれています。ぼくとしては、久方ぶりにこの文字を見て懐かしい気持ちがありますよ」

「いつ頃まで使われていた言葉なんですか?」

「割と最近ですよ。千二百年前くらいでしょうか」

「……ソウデスカ。気になるなら読みます? 私は読めませんし」

「あ、では失礼して。あ~、このページの感じいいですねぇ。魔界では魔法文字が一般的なんですけど、ぼくはページをめくる感覚が好きだったので紙の本ばかり集めていましたよ。ぺらぺら~っと」

「魔王さんからしたら、古書も古くないんでしょうね。いつの時代のどんな言葉の本も読めるというのは、楽しみが増えそうです」

「読書はとてもすばらしいですけど、老眼にはこたえます」

「まじで言ってます?」

「えへへ。勇者さんは学習スピードが速いですから、こうした古書を繙くこともできると思いますよ。どうですか、学者の道に進んでみるというのは?」

「嫌です」

「ばっさりですね。古書に囲まれ、一冊ずつ丁寧に読む勇者さん……。とってもすてきだと思いますよ?」

「魔王さんの日記を研究するのはおもしろそうです」

「勇者さんはそのままが一番すてきです」

「そういえば、その本の内容はわかりましたか?」

「はい。この古書は、さらに昔の古書を読むための手引書でした」

「……ん?」

「ちなみに、この古書を読むための手引書もありますよ。以前、見たことがあります。それも古書と呼ばれるものでしたけど」

「古書を読むための古書を読むための古書……。うーん、頭が故障しそう」

お読みいただきありがとうございました。

古書は無事、持ち主に返されました。魔王さんの手で。


魔王「古い文字もお勉強しますか? いつか役に立つかもしれませんよ」

勇者「魔王さんに読んでもらうので結構です」

魔王「ぼくが必要とされている! 歓喜!」

勇者「ロリババアの本領を発揮してくださいね」

魔王「老眼でよく見えなくて~」

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