176.会話 うさぎの話
本日もこんばんは。
うさぎさんはいいぞ。
「うさぎはさみしいと死んでしまうそうですよ」
「そんなまさか」
「もちろん、都市伝説のひとつです。ですが、さみしいと心が苦しくなっていくのは人間も同じだと思いませんか?」
「人間ではない魔王さんもそうなんですか」
「ひとりでいた時間の方が長いので、さみしさには慣れていますよ。けれど、勇者さんと一緒にいるようになったことで、さみしさをより感じるようになりました」
「うざったいほど一緒にいるのに?」
「だからこそ、ですよ」
「……まあ、それはいいとして、ひとつ質問があるんですが」
「なんでしょうか?」
「そのうさ耳はなんですか? あからさまに私に見せているようですが」
「今、ぼくはうさぎさんです」
「うるせえんですよ。うさぎだっていうなら、変化魔法でうさぎになってください。しかも、耳だけ魔法で具現化するでもなく、カチューシャなんて」
「うさ耳カチューシャです。勇者さんの分もありますよ」
「いらないです。うさぎでも人間でもない魔王さんがうさぎになってどうするんですか」
「さみしくて死んじゃいそうなので構ってください」
「さっき都市伝説って言ったのはどこの誰でしたっけ」
「ぼくです!」
「いい返事ですね。発言に責任を持ってください」
「さみしくて死んじゃうって言えば構っていただけるかなぁと」
「死なないでしょう、あなた」
「そうなんですけどねぇ。では、順番を変えます。死んじゃうくらいさみしいので構ってください」
「程度表現に変えてきましたね。なるほど、わかりやすいです。嫌です」
「うぐっ……。勇者さん、うさぎさんはお嫌いですか……?」
「好きですよ。魔王さんよりは遥かに」
「それは……どれくらい……なのか……。こほん、これはいつものことなので気にしていません。ところで、勇者さんはうさぎさんにどんなイメージがありますか?」
「足が速いとか、耳が長いとか、もふもふとか」
「うんうん」
「うさぎ肉とか?」
「こらこら」
「昔はよく見ましたね。野生で駆け回っている姿を覚えていますよ」
「ペットとしての人気も高いそうですよ。おうちにうさぎさん、どうですか?」
「懐くんですかね?」
「体の周りをくるくる走ったり、撫でろと催促したり、そばに寄ってきたりするそうですよ。かわいいですよねぇ」
「なぜくっつく。魔王さんはうさぎじゃありません」
「ぼ、ぼくは今、うさぎさんなので。いつもよりちょっと近く寄っているだけですので」
「うさぎは耳を持たれるのが嫌だとか。えい」
「あのー、そっちはうさ耳じゃないです。ぼくのほんとの耳の方です」
「ほんとも偽もないでしょう。この姿も変化魔法で表しているだけのくせに」
「そうですけどぉ~……。ちゃんと感覚はつけていますよ。あわわ、引っ張らないでください~。うぎゃあ、うさ耳がたれ耳に……」
「こんなうさぎいませんでしたっけ」
「ロップイヤーでしょうか? ぺたーんとした耳がかわいいですよねぇ」
「聞かうさ……」
「それ、お猿さんの方ですね。耳が閉じていても、うさぎさんは聞こえていますよ」
「それにしても、うさぎってかわいいですよね。魔王さんと違って」
「ぼくだってかわいいですよ! ほら、もっとよく見て。かわいい! ほら!」
「まんまるフォルム、くりくりおめめ、ふわふわ毛並み、特徴的な耳……。かわいいが形を成したらうさぎになりましたって感じで」
「ぼくにもうさ耳ありますよ」
「そんなニセモノ求めてない」
「ひどい。ニセモノにはニセモノの良さがあるかもしれないでしょう!」
「ヤケですね。うさぎは聴覚が優れているんでしょう? では、私が小声で言う言葉を当ててください。正解したらうさぎ(仮)にしてあげます」
「うさぎ(仮)……? い、いいでしょう。どんとこいです」
「………………」
「声ちっさ。聞こえませんよう」
「うさぎなら聞こえますよ」
「ぐぬっ……。ええと、今の言葉はですね……『うさ魔王さんかわいい』です!」
「不正解。やはり魔王さんはうさぎ(偽)のようですね」
「うさぎ(偽)⁉ くっ、もう一回お願いします」
「嫌です、めんどくさ――」
「どうしました?」
「……なにか音が聴こえます。魔物の声ですね。距離は一キロ。数は三」
「勇者さんの方がうさぎっぽいですねぇ。うさ耳、どうぞ」
「いらん」
「まあまあ、かわいいですから」
「うわぁ、ピンで留められた。このやろ……。どうやって外すんだこれ……」
「めちゃかわいいです。……ところで、一キロ先の声、なんで聞こえたんでしょうか。勇者補正? ともかく、勇者さんはうさぎさんってことですね。あ、となると、さみしいと死んでしまう? では、ぼくがそばにいないといけませんね!」
お読みいただきありがとうございました。
うさぎさんはいいぞ。
勇者「これじゃあ、黒うさぎと白うさぎですね」
魔王「今日は一日、これで過ごしましょう!」
勇者「絶対いやだ」
魔王「あっ、取る前に写真一枚撮らせてくださいー!」