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175.会話 白いおひげの魔王の話

本日もこんばんは。

どんな話なんだと思ったそこのあなた。ヒントは日付です。

更新日に読んでいない方は、サブタイがヒントです。

「あのー、そろそろ教えていただきたいのですが~……」

「またですか? ほしいものなんてないと言っているでしょう」

「そこをなんとか! なんでもいいので。あ、なるべく、この大きな靴下に入る大きさでお願いしたいです」

「意味のわからない注文ですね。特にありません」

「お願いしますよ~。はやくしないと、準備する時間がなくなる……」

「なにか言いました?」

「い、いえ。ところで勇者さん、冬にやってくるおじさまの話はご存知ですか?」

「変質者の話ですか?」

「違いますよう。立派なおひげに赤い帽子、赤い服を着てソリに乗り、トナカイと一緒に空を駆け回るひとの話です」

「変質者じゃないですか」

「煙突から家に入り、こどもたちの枕元にプレゼントを置いていくのです」

「不法侵入」

「鍵をかけていても意味ないそうです」

「お巡りさーん」

「夢と希望を届ける配達員ですよ」

「知りません。おかしな魔族がいるもんですね」

「最近では、かなり忙しくなっていると聞きます。しかも、大事な時にぎっくり腰になってしまったとか」

「歳ですかね」

「そんなわけで、ぼくが代わりにプレゼントを届けようと思いまして」

「それで訊いていたんですね。特にありません」

「そんなぁ……。よい子の元にプレゼントが贈られるすばらしい日なのに~……」

「よい子?」

「そうですよ。ですからみなさん、よい子にしていないとプレゼントがもらえないぞ~って言われてしまうんです。かわいいですよねぇ」

「……それなら、私にプレゼントはきませんよ」

「な、なんでですか」

「私、悪い子ですから」

「いーえっ! 勇者さんはいい子です。ぼくは知っています。ぼくがなかなか起きない時も、必ず一度は見逃したのちにグーパンしてくること。賞味期限が切れたからと言って野良猫に賞味期限内の食べ物あげていること。当の本人は切れている方を食べていること。これはやめてほしいですけどね? 他にも――」

「う、うるさいですうるさいです黙りやがれくださいていうかなんで知ってんだどこで見てるんですかストーカーですか訴えますよ殴りますよ」

「この間は、迷子のこどもをチラ見して、親が見つかるかどうか見守っていましたよね」

「や、やかましいです。あれは別に、違います。ずっと泣いているから何かと思っただけです。じっと見ていたのはその、あれです、泣き声が大きいなって思って――なに笑ってんですか!」

「いえ~。まあ、よい子か悪い子かはともかく、ぼくが勇者さんにプレゼントしたいと思ったんです。なんでもいいですよ。なにかありますか?」

「……ほんとに思いつかないんです。食べ物って言っても、魔王さんがそれ以外って言うから」

「ごちそうは固定ですからね」

「お腹がすいたと言えばすぐに食べ物をもらえる、屋根のある場所で寝られる、寒さに凍えることもない。じゅうぶんなんですよ。魔王さんがプレゼントプレゼントって何度も言うので私なりに考えました。でも、考えるたびにじゅうぶんすぎる環境が思い浮かんで、それ以上頭が働かないんです。だから、プレゼントはいりません」

「……そうですか。そうですね、無理に欲しがることもありません。この靴下は飾りとして置いておきましょう」

「魔王さんはなにかないんですか?」

「なにか、とは?」

「プレゼントですよ。ほしいもの、ないんですか?」

「え? あー……。そりゃあ、ありますけど」

「なんですか?」

「ああ、いえ、お気になさらず。というか、ぼくこそ悪い子ですからね! 魔王ですから。あ、子って年齢じゃないですけど」

「たしかにそうでした。では、プレゼントはなしですね」

「というか、ぼくにはじゃがいもが贈られてきそうです」

「はい?」

「い、いえ。そうだ勇者さん。今日は早めにベッドに入ってくださいね」

「……わかりました?」

「そ、そんな目で見ないでください。今日はそういう日なんです」

「ふうん……。いいでしょう」

「疑いが晴れていない空気を感じるぅ」

「それからなんやかんやで夜です」

「あまりに雑過ぎる時間経過ですね。勇者さん、そろそろ寝る時間ですよ」

「魔王さんは寝ないんですか」

「ぎくっ。ぼ、ぼくはもう少しのんびりしてから寝ますので~……」

「そうですか。夜更かしして起きられなかったら枕元にこんにゃく置きますよ」

「いろんな意味で覚醒しちゃうのでやめてくださいね」

「では、お先です。おやすみなさい、魔王さん」

「はい。おやすみなさい、勇者さん。……さて、ここからが本番です。勇者さんはプレゼントいらないとおっしゃいましたが、やっぱりさみしいですよね。勝手に用意してしまった手前、もう引けません。とりあえずプレゼントしてみて、その先はあとで考えるとしましょう。勇者さんはもう眠ったでしょうか? いざ、寝室へ――って、言っておきますけどプレゼントを置くだけですからね! 一切やましい気持ちは持っていませんし何もしませんし触れることすらしませ――ぼくは誰に何を言い訳しているのでしょう……。こほん、気を取り直して、勇者さん、失礼しまーす……。ちゃんと眠っていますねぇ。飾りになった靴下も持って来たので、枕の隣に……っと。中身を入れておいてよかったです。音はなるべく立てないようにしなくては……あぁああぁっと危ない! 危ないでーす……。ひらひらが引っかかって転ぶところでした。危うく勇者さんにダイブし、あらぬ誤解を招いて胴体をふたつに斬られる未来が……ふう。よく眠っていますねぇ。この日のために鍛えた音消し歩きのおかげで勇者さんの寝顔を見ることができました。起きる気配もありませんし、もうちょっと眺め――いえいえ、だめですよぼく! 任務は達成。一刻もはやく立ち去って勇者さんの眠りを守らねば。いざ、てっしゅ――」

「……ううん。……う?」

「ひやぁぉぁ⁉」

「…………魔王さん?」

「あっ、あのこれはその別に何かしようとしているわけではなくて何かしたかと言われれば今しがたしたばかりですけど決して変なことではなくてそのイベントごとのひとつでしてつまり勇者さんに触れたりとかは断じて決して誓ってしていませんのでぇぇぇ‼」

「白い……ひげ……愉快……すぅ……すぅ……」

「あ、あれ……? 起きて……ない? セーフ? はぁぁぁぁぁ~……どきどきしましたぁ。と、とにかく撤収!」

「朝です。おはようございます、魔王さん」

「おはようございます、勇者さん。よく眠れましたか?」

「はい。おもしろい夢もみました。魔王さんにひげが生えた夢です」

「ぎくっ。そ、そうですか」

「魔王さん、私の部屋に入りました?」

「い、いいえ! ハイッテマセン!」

「枕元にこんなものが」

「な、なんでしょうねぇ。きっと、勇者さんが大好きなひとがプレゼントしてくれたんですよ。開けてみましょう」

「……これは。なにかはわかりませんが、きれいです」

「雪の結晶のブローチですね」

「白と青のグラデーションが……。光の加減できらきらしています」

「つけてみてくださいな」

「……こんな感じですか?」

「とってもすてきです! ギリギリまで選んだかいがあっとっと~い」

「なんですか?」

「気にしないでください。ほんとに」

「誰が置いていったか知りませんが、私がもらってしまっていいのでしょうか」

「勇者さんの枕元にあったんでしょう? なら、勇者さん宛のプレゼントですよ」

「……こんなにきれいなもの、私にはもったいないですけど……」

「けど?」

「選んだひとに感謝して、ありがたくいただくとします」

「ぜひぜひ」

「贈り主がどこにいるかわからないので、ここで言います。プレゼント、ありがとうございます」

「えっへへ~」

「うーん、もしかして、不法侵入する変質者の方からでしょうか」

「あまりに不名誉な表現ですね。昨日はぼくたち以外、誰も部屋にいませんでしたよ」

「そうですか。なるほど」

「なんでぼくを見るんですか?」

「いやぁ」

「……?」

「それにしても、昨日は私より遅く寝たのに、私より早起きだなんて……妙だな」

「名探偵勇者さん⁉」

「なにゆえ早起きしたんですか?」

「えっ。そ、それはその、片づけとか」

「昨日の夜、あらかた片づけましたよ」

「……食卓の方ではなく、コスチュームの方……」

「なんて?」

「あーっと! ご飯! 朝ごはんの準備をしなくては」

「そうですね。お皿の準備を――あれ。魔王さん、何か落としましたよ」

「朝ごはん、朝ごはんの準備ですー! ぼくだって早起きくらいします。ねぼすけばっかりじゃないんですよー!」

「聞いてないし。なんでしょう、これ。付けひげ? んー? このひげ、どこかで……」

「勇者さーん、お皿とコップ、頼んでもいいですかー?」

「はーい。……あ、やっぱり。ふふっ、昨日も思いましたけど、似合っていませんねぇ」

お読みいただきありがとうございました。

寒い日にはブローチをつける勇者さんが見られるとかなんとか。


魔王「ブローチを眺めてどうしたんですか?」

勇者「……センスいいなぁと思いまして」

魔王「プロの技ですからね! とってもすてきです」

勇者「……そっちじゃないけど、まあいいか」

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