表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/702

170.会話 人魚の話

本日もこんばんは。

ファンタジー作品ではお馴染みの人魚さんです。今回、ご本人は登場しません。

「勇者さん、人魚ってご存じですか? マーメイドやセイレーンとも呼ばれることがある、上半身が人間、下半身が魚の生物のことです」

「一度に多くのタンパク質を摂取できそうな体をしていますね」

「もう少し食欲から離れた感想をお願いしてもよろしいですか?」

「知っていたら捕獲しに行っていると思います」

「では、ご存じないと」

「知っているといいことでもあるんですか? 今日の夕飯が人魚肉になるとか」

「食べる気満々ですね。ですが、食べるのはおすすめしません。なぜなら、人魚の肉を食べると不老不死になってしまうという伝説があるのです」

「なるほど。魔王さんは食べたってことですね。お味は?」

「食べてません! ぼくの不老不死は先天的なものです」

「不老不死になるかどうかなんて、誰にもわからないと思うのですが。だって、老いもせず死にもしないのなら、あらゆる知り合いは先に死んでいくってことですよ。そのひとがほんとうに不老不死かどうか、確かめる術がありません」

「たしかにそうですねぇ」

「ということは、伝説はただの伝説。もしくは」

「もしくは?」

「まじで不老不死になったひとが自分で広めた」

「おしゃべりさんですか」

「私は知っています。長く生きすぎてくだらないおしゃべりにも楽しさを感じるようになってしまった哀れなロリババアを」

「誰ですか――って、ぼくのことですよねそれ」

「誰かとしゃべりたくてしょうがないんでしょうね。これだから不老不死なんてもんは」

「後悔しても遅いでしょうけどねぇ。なにせ、後悔した時にはもう死ねない体になっているのですから」

「やけ食いするしかないですね。人魚を」

「ノーエフェクトって表記が出続ける様子が目に浮かびます。って、そんなことはどうでもよくて、人魚は歌がとってもお上手だとされているんですよ。なんでも、人魚の歌を聴いて魅了され、船が沈没してしまうのだとか」

「それはちょっと、船乗りの能力チェックをした方がいいと思います」

「歌がとってもとーってもお上手な勇者さんは、もしかして人魚なのかも!」

「人間ですけど」

「そうですけど。まるで人魚のような歌声だって褒めようと思って」

「船が沈没するような歌声ってことですか。破壊神は私じゃなく魔王さんでしょう」

「切り取る部分が違うだけでこんなにも……って、あれ? 勇者さんの切り取り方でいくと、実は人魚は歌がお上手ではない可能性が……?」

「あまりの破壊ボイスに船乗りたちの三半規管や思考能力が崩壊し、船の操作を誤ったことで沈没した。こっちの方がありえそうな話ですね」

「世間の人魚イメージが崩れていく危険性がありますね……。話題を変えましょう。人魚といえば『人魚姫』。切なくも美しいおとぎ話に出てくる人魚姫は、人間の王子様に恋をして、陸にあがるため、声と引き換えに人間の足を手に入れるのですが……」

「ですが?」

「結末を思い出すと泣けてしまって……に、人魚姫さん……うっ、うううう……」

「忙しいひとですね。その物語は知りませんが、かぐや姫さんの親戚かなにかですか?」

「その視点はおもしろいですね。親戚ではありませんが、お友達だそうですよ」

「だそうですよって、まさか」

「はい、ぼくの古い知り合いです。人魚も魔族ですからね。しかもかなり長寿の。人魚を食べると不老不死に~という噂も、ここから生まれたものでしょう」

「てことは、実際にいるんですね、人魚」

「もちろんですよ。会いたければ今度お呼びしましょうか?」

「あ、結構です」

「勇者さんの噂は魔なるものたちに広まっており、興味を抱いている輩が一定数いるようだと、魔界から調査報告書が届きましてね」

「私の知らない話が飛び出しましたね」

「ぼくの古い知り合いである、とある人魚からも手紙が届いたんです」

「へえ。なんて書いてあったんですか」

「『今度、勇者さんとデュエットしてみたい』と」

「え、いやです」

「勇者さんの答えがわかっていたので、ぼくもお断りしました。ですが……、ちょっとだけ思ってしまったのです。オーケーしたら勇者さんのすばらしい歌声を聴けるチャンスでは……と。海辺で、波打ち際で、海蝕洞で、勇者さんの歌声を聴きたい!」

「だから珍しく魔族を呼ぼうだなんて言ってきたんですね。欲望の塊ですね」

「ぼくがおそばにいる限り、勇者さんに危険が及ぶことは決してないようにしますので」

「いやですよ。魔族と歌うとか、私になんのメリットもありませんし。泳げないし」

「ご安心ください。海に引きずり込む癖は直すように言っておきますから!」

「物騒な癖ですね。まだ聞かない方が行ったかもしれませんよ」

「い、一曲だけでも」

「いやです。もう行っていいですか? 風呂場前で捕まえて会話に巻き込まないでください。今日は泡風呂を楽しもうと思っているんですから」

「勇者さんが人魚姫になっちゃう……」

お読みいただきありがとうございました。

魔王さんの交友関係がさらに謎になっていく、今日この頃。


勇者「人魚かぁ。戦うとしたら、やっぱり水中戦なんですかね」

魔王「怒ると短剣で直接刺しにきますよ」

勇者「勇ましいな……」

魔王「水中では首を絞めるそうです」

勇者「ガチだな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] > 船が沈没するような歌声 その発想は無かったので、思わず笑ってしまいました。 人魚の知識なく船のエピソードを聞くと、そんな解釈になるんですね。 今回の話も楽しく読ませていただきました。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ