17.会話 歌の話
本日もこんばんは。
歌の話です。魔王さんの意外なことが明らかに。
「魔王さん、歌ってください」
「突然ですね。体を大の字に広げて寝っ転がって、暇なんでしょうね」
「その通りです。歌ってください。私は昼寝します」
「子守唄というわけですね。よいでしょう。いきますよ」
「………………うあああっ⁉」
「どうしました? っていうか、勇者さんってそんな大きな声出るんですね。初めて聞きましたよ」
「の、脳を揺さぶるような衝撃が……。恐怖で鼓膜が震えています」
「鼓膜が震えるのは正常ですよ」
「魔王さんの魔王たる力を垣間見た気がします」
「歌っただけなんですが」
「魔王としての力を使ったんじゃないんですか⁉」
「驚愕しながら言わなくても。子守唄ですよ、子守唄」
「永遠に眠らされるのかと思いましたよ」
「ひ、ひどいですね! 心地よい眠りを誘う歌ですよ」
「私が知らないだけで、魔族の子守唄というものはそういうものなんでしょうか」
「ぼく、歌うの好きなんですけど、なぜか魔族が一斉に逃げるんですよね」
「察し」
「逃げ遅れた魔物が断末魔をあげながら消滅したこともありましたね」
「消滅」
「失礼しちゃいますよね」
「いま、初めて魔族に心から同情しました」
「音痴なんでしょうか、ぼく……」
「いえ、もはやそのレベルではないですね。武器ですよ」
「武器」
「神様が魔王を倒せと言った理由がわかりました」
「そこまで言います?」
「私が浅はかでした。愚かでした」
「え、あの……?」
「でもまあ、歌うのが好きという気持ちは理解できますよ。私は聴く派ですけど」
「どういう曲を聴くんですか?」
「銃撃の音とか」
「銃撃」
「爆破音とか」
「爆破音」
「嘘ですけど」
「へっ、あっ、そ、そうですよね。びびびびっくりしました。訊いてはいけない質問をしてしまったかと」
「そもそも音楽をあまり聴かないですが、強いて言えばバラードが好きです」
「意外です。てっきり、血がみなぎるような激しいロックなどかと」
「いやですよ、疲れそう」
「あ、通常運転ですね」
「正直、歌詞があると脳がそっちを追ってしまうので落ち着かないんですよね」
「頭の中で一緒に歌っちゃうタイプの人ですね」
「水の音とか焚き火の音とかの方が好きです」
「アルファ波とかいうやつですね。リラックス効果があるとかいう」
「でも、魔王さんの歌と比べればどんな曲でもリラックスできる気がします」
「そんなにですか」
「そんなにです」
「勇者さんは歌わないんですか?」
「興味ないので」
「鼻歌とかも?」
「そうですね」
「ぼく、以前殺しかけた魔族の子から聞いたんですけど」
「殺しかけた魔族……。して、それは?」
「誰かと一緒に歌うと上手くなるそうですよ」
「ほんとですか、それ?」
「わかりません。なにせ、一緒に歌ってくれる人がいなかったので」
「ああ……」
「なので、いかがでしょう?」
「私は死んでもいいんですか?」
「さっき爆散しなかったじゃないですか」
「あの短さでクリア判定されても」
「物は試しです。みんなやっていますから、少しだけ、ね?」
「クスリに誘う手口ですよ、それ」
「一緒に歌うの夢だったんですよ。お願いっ!」
「仕方ないですね。回らない寿司で手を打ちましょう」
「い、いいでしょう」
「あー、あー、うん。では、せーの」
「~~~~♪」
「~~~~♪」
「…………」
「…………」
「歌うのも悪くないですね」
「あの、勇者さん」
「なんですか」
「歌、めちゃくちゃ上手いじゃないですかー‼」
「自分の上手い下手なんかわかりませんもん」
「なんで歌わないんですか。もったいないですよ!」
「そんなの決まっているじゃないですか」
「なんですか?」
「自分で歌ったら昼寝にならない」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはかなり歌がうまいです。
勇者「その手に持っている物はなんですか」
魔王「ボイスレコーダーというものです。勇者さんの歌を録音しいつでも聴けるように――」
勇者「没収」
魔王「あーーーー‼」