169.会話 ゲームの話
本日もこんばんは。
今日はおふたりがゲームをするそうです。一体どんなゲームなのやら。
では、どうぞ。
「魔王さん、ゲームをしませんか」
「ゲッ……⁉ ゲームですか? 勇者さんがぼくと? それってどういう――アッ、めちゃくちゃふつうにコントローラーを使うゲームですね。テレビに繋いでやるやつ。びっくりした。焦ったぁ」
「なんでそんなに慌てているのやら」
「ですが、珍しいですね。勇者さんがぼくをゲームに誘うだなんて。そもそも、ゲームなんて持っていたんですね」
「以前、神様から無理やり押し付けられ――いただいたものです」
「押し付けられたんですねぇ」
「嫌すぎて一度もやったことないんですが、クリアしたらご褒美があると言っていたのを思い出しまして」
「やめといた方がいいですよ。神様からのご褒美なんてもらうもんじゃありません」
「それは同意です。ですから、ご褒美が目的ではありません」
「では、なにが?」
「ゲームの内容です。ここにタイトルが書いてあるので、読んでいただけますか」
「ええと……『神様ぷれぜんつ! 誰でも遊べる! 魔王を討伐する勇者のためのすぺしゃる予行演習』? 捨てなさい、こんなもの」
「腹立たしいことこの上ないタイトルですが、中身はアクションRPGらしいです」
「起動したら魔法でも発動するようなトラップがあったりしませんよね?」
「さあ」
「微塵も興味なさそうな声」
「このリングを指にはめて起動すると、精神がゲーム内に移動し、仮想空間にて活動できるようになるとか」
「コントローラーの意味」
「リングが邪魔なので今回は使いません。れっつ起動。おお、画面にタイトルが映りましたよ。読めませんけど」
「ゲームの説明書もついているんですね。なになに……『人生に説明書はない。君の進んだ道が人生だ』。はぁん? 誰に向かって言ってんですかなぁにが人生に説明書はないですか勝手に運命を決めるような横暴な存在のくせによくもまあいけしゃあしゃあと」
「魔王オーラが出ていますよ」
「勇者さん、抱きしめていいですか。ストレスで死にそうです」
「嫌です。死ぬなら勇者としてはありがたい話ですから、どうぞそのまま。すでにアバターが作成されているようですね。NPCでしょうか」
「え、いや、これどう見てもぼくたちですよ。うわ、神様やりやがりましたね」
「なるほど。気持ち悪いですね」
「一切包まない言い方ですが、同感です」
「操作がよくわかりませんが、テキトーにボタンを押せばいいんでしょうか? あ、大剣が出てきた。私が持っているのと同じものですね」
「ぼくは頭の輪っかを投げていますね。おいこら神様? これは武器じゃないですよ?」
「魔王さんがいつもの私みたいになっている。頭の上に緑の棒がありますね。体力ゲージでしょうか。攻撃したら……減りました。そぉい、もっとくらえ。おりゃー」
「ちょっと待ってください。勇者さんだけ謎のバフがついていますよ。なんですかあれ」
「知りません。勇者補正じゃないですか?」
「グラフィックも音楽もやたらほのぼのしているのに、攻撃をくらう度にとんでもない量の血が出るのはなんですか……。神様の趣味……?」
「まあ、斬られたら血は出るでしょう」
「変なとこにこだわりを持たないでくださいよ。わぁぁぁん、ぼく血まみれですぅ」
「魔王さんも攻撃してくださいよ。さっきの、操作確認だから私に当たっていませんよ」
「ゲームだからといって、勇者さんを傷つけるのはいやです」
「でも、このままでは進みませんよ」
「進まなくていいです。そもそも、神様作のゲームなどやるに値しません」
「そうは言っても――あ。魔王さん、謎のカウントダウンが出てきました」
「カウントダウン? って、あと三秒しかないじゃないですかこういうのはふつう六十秒とか十秒とか区切りのいい――ってああああしゃべっていたらゼロになりました」
「空の色が暗い赤に染まって……空が裂けて……うわぁ、大量の魔族魔物が出てきた」
「ぼくの出番‼」
「絶対ちがうと思いますよ」
「くらえ、輪っかから出る光のビーム‼」
「それでいいんですか? ほんとに? ふざけた技なのに攻撃力と範囲がえげつないな」
「一掃してやりました。どやぁ」
「私、一応勇者なのになんにもしてない」
「これで世界は平和になりましたとさ」
「魔王が体力満タンで生きていますけどね」
「あ、今のチャレンジモードだそうですよ。こっちのノーマルモードをやりましょう。もっとほのぼののんびりとしたゲームライフを送らなければ。ぽちっとな」
「あれ、画面がふたつに分かれましたね。魔王を倒せってマークが出ています」
「……ぼくの方には勇者を倒せって指示が……そんな……」
「ノーマルモードって、つまり現実の私たちってことですか」
「……うがー‼ こんな世界、壊してやります‼」
「ちょっと、セーブ前にコードを抜いたら……あーあ、一からやり直しですね」
お読みいただきありがとうございました。
隠しダンジョンをクリアすると、歴代勇者のアバターが手に入るとか入らないとか。
魔王「せっかくゲームやるなら、カーアクションとか街を造るやつとか別の世界の勇者のやつとかにしましょうよ」
勇者「操作はおもしろいですよ」
魔王「勇者さん、操作お上手ですね。上達のスピードがえげつない……」
勇者「ボタンを押すだけじゃないですか」
魔王「そんなセリフ言ってみたいですよ」